労務・人材活性化

褒めても励ましても育たないスタッフはお手上げ?

経営VOL.171

先日、会員であるY医院さんから、『最近の子は怒ってはいけないと家内にも言われていますし人手不足で辞められても困りますので、慣れないなりに、できたことは褒め、失敗しても怒らずに励まし、やってくれたことには労い、感謝の言葉掛けと、日々頑張り、昔より我慢も増えましたが、それでも他所と比べても比較的順調かなと思います。しかし、ここ数年、Z世代と呼ばれる若い子には、このやり方が通じないのです。どうすれば良いのでしょうか』というご相談を頂きました。

 詳しくお聞きすると、褒めても嬉しそうにするどころか、戸惑った様子を見せる、やたらと自分以外の要因を持ち出す(先輩のおかげ、偶然できた等)とのことで、院長としては喜んでもらいたいし自信を付けて欲しいため繰り返し鼓舞を続けると、「これ以上、続ける自信がありません」と言って辞めてしまう…。
最初は、単にネガティブ思考の持ち主だったのかと思っていたが、ここまで同じ傾向が続くと当院に何か問題があるのか、一体何が原因なのか訳が分からないとのことでした。

確かに、ここ数年、このY医院さんに限らず、若いスタッフがすぐに辞めるという相談は増えており、その都度、個々のパーソナリティや職場環境等にフォーカスしていましたが、それだけではなく、この世代を理解するために『インポスター症候群』について知っておく必要がありますので、今号にてY医院さんと同じ悩みを抱えている皆様にご紹介したいと思います。

【『インポスター症候群』について知っておきましょう!】
『インポスター症候群』とは自分の能力や実力、出した成果や周囲から得た評価を自分自身で認められない、過小評価してしまう心理状態のことです。インポスター(impostor)とは「詐欺師」や「ペテン師」を表す英語で、「自分はそんな人間ではない」と周囲を騙しているという感覚から『詐欺師症候群』あるいは『ペテン師症候群』とも呼ばれます。このようになってしまう原因としては、頑張っても認めてもらえなかったトラウマ、少し上手くいっただけで周囲から妬まれイジメられた辛い思い出、失敗したときに激しく叱られた等の、過去の「経験」の他、個人よりもチームや組織の成功を優先する教育を受けた、女性らしく控え目に生きるという躾をされた、個性を出すと厭われ周囲との同調を求められ続けた等、育ってきた「背景」も影響していると言われています。
つまり、本当は能力が高く優秀なのに、このような状態で力を発揮できない若い人が多くいるということなのです。

【自己肯定感の低さには、他にも原因が…。】
Z世代は『デジタルネイティブ』と呼ばれ、生まれたときからデジタルツールによるコミュニケーション(LINEやチャット等)が当たり前で、他人と面と向かって直接「会話」をしないため、相手の表情や仕草から「行間を読む」「察する」「気持ちを想像する」という人間が本来持ち合わせているはずの能力が退化し、「文字」を「見たまま」でしか理解できません
そして、この状態で「SNS」に依存すると、その世界での評価が自分の評価となってしまう、つまり、他人の視点で行われた評価に基づいて自分の価値を決めてしまう、極端な話、他人目線でしか自分を評価できなくなっているのです。つまり、SNSの他人評価で生きてきた世代は、安全な場から他人を評価する『傍観者』というポジションに居た方が安全で、それが自分の居場所であると考えているため、それに反して必要以上に褒められたり目立ったりすると、「嬉しい」より「他人の目に晒される不安」の方が勝り、その場から逃げたくなるので、それが退職に繋がっているということなのです。 

【それでは、現場ではどうすれば良いのか?】
これは医院によって、また、対象となるスタッフによって多少事情は変わるかも知れませんが、このような状況になる原因が、基本、「①自分の能力を発揮することへの不安と恐怖」、そして「②自分という存在についての過小評価」ですので、これらを解決するには、まずは、これまで幾度かご紹介した職場における「サイコロジカルセーフティ(心理的安全性)」の醸成、つまり、過去のことはさておき、当院ではチャレンジ・提案は大歓迎だから、遠慮せずに思い切って仕事ができて、思い切って色々な意見が言える職場(前向きな姿勢による結果なら何も言われない職場)であると理解してもらうことです。
次に、自己肯定感を上げてもらうために大手企業等では「セルフコンパッション(自分への慈悲)」、つまり他人からどう見られ、どう思われているか等は考えず、あるがままの自分を受け入れるトレーニングを取り入れていますが、このような専門的なものではなくても、そのスタッフさんの存在自体に価値があること、そして感謝していることを理解してもらいましょう。

そのため、下手に褒めたりはせず、日々、労いの言葉を欠かさず、そして誕生日にバリデーションサークル等で一気に感謝を伝える等の取り組みを考えてみてはいかがでしょうか。 今号にてご紹介した施策は総合的な企画を立てて進めた方が効果的です。ご希望される先生はご相談下さい!

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