労務・人材活性化

障害のある人への『合理的配慮の提供』が義務化されました

経営VOL.180

ご存知の先生方も多いと存じますが、令和3年に『障害者差別解消法』改正され、令和6年4月1日から(今月から)施行されます。これにより、障害者に対する合理的配慮の提供「努力義務」であった民間事業者も「義務」となりましたので、クリニックを含む全ての事業者に対応が必要となるため、今号にて概要についてお伝えしたいと存じます。 

【そもそも、障害者差別解消法とは?】
障害者差別解消法とは、すべての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目指すために定められた法律で、平成28年4月1日に施行されました。
具体的には、行政や民間業者に対して「障害を理由とした不当な取り扱いを禁止する」ことや、「障害者から社会的障壁の除去の意思表明があった際に『合理的な配慮』をするように努めなくてはならない」というものです。

この法律における“障害者”とは障害者手帳を持っている人のことだけではなく、障害や社会の中にある障壁によって日常生活や社会生活に相当な制限を受けている人全てが対象となります。 尚、この義務を果たさないことによる罰則ですが、行政が特に必要と認め、その事業者に対し報告を求めたり、助言・指導・勧告を行ったりした場合、これに従わなかったり、虚偽の報告をした事業者は20万以下の過料に処せられます。つまり、国が目指す『共生社会』に非協力的な事業者に対しては毅然とした対応をするということなのです。

【それでは「合理的配慮」とは?】
平成18年、国連にて採択され、日本も平成26年に批准した「障害者の権利に関する条約」には『合理的配慮とは障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整』と定義されていますが、簡単に申し上げると障害者が社会で出会う困りごとや障壁を取り除くために行政や事業者が行う調整や変更のことです。
つまり、今回の主旨をまとめると、障害者(身体、精神等、心身の機能障害がある者)が継続的に日常生活又は社会生活に障害や社会的障壁によって制限を受けている状態をなくし共生社会を目指しましょう、そのために、その障害や社会的障壁の原因が事業者側にあるなら、その原因を取り除くのは事業者の義務としますということなのです。     

それでは、不特定多数のあらゆる障害者を想定し、建物や内装等、ハード面の整備や、全ての障害者の求めに応じるための人員配置などが必要なのかといえばそうではなく、事業者の「過重な負担」にならず、かつ、① 必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限り、② 障害者でない者と同等の機会の提供を受けるためで、③ 事業目的・機能の本質的な変更に及ばない範囲で良いとされています。
つまり、事業者が提供できる無理のない範囲で、かつ、本来の業務で障害者でない者と同じ機会を提供するために、本業の機能を損なわない程度で行えば良いということです。
但し、障害者の求めに全く応じない(建設的対話の拒否)ことや、できることすらしない(差別的取扱い)事業者に対しては毅然とした対応をしますということなのです。

【それでは、具体的に何に取り組めば良いのでしょうか?】
以上を踏まえ、自院ではどのような対応が可能なのか、院内にて話し合って頂ければと存じますが、障害の特性は人により異なり、必要な配慮や工夫も様々ですので、総論になってしまうとなかなか具体的になりませんので、ご参考までに下記のケース別に話し合ってみてはいかがでしょうか。(対応例も記載しますので、参考にして頂ければ幸いです)

ケース① : 車椅子の方への対応
□    低いカウンター・記入ボード等の設置    □    受付カウンター外での対応
 

ケース② : 聴覚・言語障害の方への対応
□    筆談やモニター等、可視化への対応     □    診察の順番かきたときの働きかけ

ケース③ : 視覚障害の方への対応
□    聞き取りながら問診票へ代理記入      □    診察室まで手を引いて案内

ケース④ : 精神障害(精神疾患)の方への対応
□    いつも以上に時間をとってゆっくり対応   □    比較的、患者が少ない時間帯を案内

ケース⑤ : 知的障害・発達障害の方への対応
□    イラストや図、写真で分かりやすく説明   □    ご家族用の資料を準備 

今回は法改正に基づくご案内ではありますが、これらの取り組みは、本来、医療機関に求められるホスピタリティに繋がりますので、クリニックの基本に立ち返る意味でも、是非、皆さんで積極的に取り組んで頂くことをお勧めします。

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