財務・税務戦略

“タワマン節税封じ”-国税庁の見直し案

財務VOL.170

先月22日、国税庁がいわゆる「タワマン節税」についての第三回有識者会議を開催、その後、「マンション評価の見直し案(要旨)」が公表されました。
今号では、その見直し案の内容について解説していきます。

1.タワマン節税とは
「タワマン節税」とは、マンション(特に高層マンション)の相続税評価額が、市場価格より著しく低くなることを利用した、相続税・贈与税の節税策です。
現行の相続税の通達(ルール)では、マンションの相続税評価額は、次の①と②の合計額とされています。

①建物の固定資産税評価額

②敷地全体のうち自身の共有持分の㎡数×単価(路線価等)

しかし、この方法では、マンションの全ての部屋が同じ条件で評価されてしまい、通常、高層階にいくほど高くなる市場価格と乖離が生まれてしまいます。

国税庁の有識者会議の資料によれば、平成30年の中古マンション取引のサンプル調査では、全体の約65%のマンションの相続税評価額が市場価額の半額以下となっており、全体平均で2.34倍もの乖離率が生じています。

1÷2.34=約42.7%、つまり、同じ1億の資産であっても、マンションであれば約4,270万円、約4割程度の評価額まで落とせるということです(マンション全体の統計なので、タワマンに限定すれば更に乖離は大きくなります)。主に富裕層の間で、節税の常套手段として長年用いられてきた手法でしたが、今回とうとう改正へと至ったのは、令和4年4月19日の最高裁の判決が背景にあると考えられます。

これは、タワマン節税について納税者と国税が争った裁判で、結果としては地裁、高裁、最高裁の全てで納税者側が敗訴、当初0円と申告していた相続税について、過少申告加算税含め3億円超の処分が下され、過度なタワマン節税が否定されるとともに、現行ルールの不備が浮き彫りとなりました。

タワマン節税の見直し自体は、平成29年の税制改正大綱から言及はされていた(現にマンションの固定資産税については平成29年に改正が行われ、高層階ほど税額が増えるように改められましたが、影響額が僅少だったため然程抑制効果はありませんでした)のですが、この判決を機に、令和5年度の税制改正大綱にて「相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する」旨が明記、その後、有識者会議が幾度か開かれ、今回、見直し案の公表へと至ったわけです。

今後の流れとしては、今回の案をもとに、国税庁が通達案を作成意見公募手続を経て、実際の改正となります。

2.見直し案の内容
見直し案では、次の算式によりマンションの評価を行います。

現行の相続税評価額 × マンション1室の「評価乖離率」× 最低評価水準0.6

上記の算式は、市場価格との乖離率を乗じることで理論上の市場価格を算出、その60%を新たな評価額とする、というものです。
「60%」としているのは、戸建の家屋の相続税評価額が市場価格の60%程度なので、そこに合わせることで、戸建とマンションの選択による有利不利を無くすためです。

計算に用いられる「評価乖離率」は、市場価格と乖離する要因となっている、「築年数」「総階数」「所在階」「敷地持分狭小度」4つの指数を用い、算出されます。
具体的な算式は、

「築年数×△0.033」+「総階数指数×0.239」+「所在階×0.018」+「敷地持分狭小度×△1.195」+3.220

となりますが、煩雑かつ、あくまで未決定の仮の算式になります。

構造としては、築年数が新しく総階数が多く、所在階が高いほど乖離率が大きくなる=評価額が上がる算式になっています。

敷地持分狭小度だけは聞きなれない単語ですが、これは、マンションは階数が増えると、それだけ自身の持分の敷地が狭くなり、評価額が下がり高層マンションほどこの傾向が強く、市場価格との乖離が大きくなるため、それを補正するための指数です(持分が減るほど乖離率が大きくなります)。

なお、評価乖離率が1.67以下となった場合には、戸建とほぼ同じ(市場価格の約60%)乖離率となるため、補正計算はせず、現行の相続税評価額をもって評価します。
また、極めてレアケースだとは思いますが、評価乖離率が1.0未満(つまり現行の相続税評価額が市場価格より高い)場合には、現行の相続税評価額×評価乖離率=市場価格(理論値)をもって評価額とされます(市場価格の方が安い場合は市場価格が上限)。

評価乖離率と最低評価水準は3年毎に見直される予定です。

【対象外となる建物】
この見直し案の対象となるのは、「区分所有登記された建物及び敷地(利用権)で居住の用途に供することができるもの」と定義されていますが、以下は除くとされています。

①2階以下のマンション
②1棟丸ごと所有しているマンション
③二世帯住宅

 ①は階数による価格差があまりないため、②は全体評価で問題ないため、③の二世帯住宅は世帯ごとに居住用部分を区分所有登記した場合に上述の定義に該当してしまうため、除外されます。

今回の見直し案の通りに改正が行われた場合、「マンションの相続税評価額=市場価格の60%程度」となるため、一定の節税効果は残るものの平均値で考えても現行より20%ほどは税負担が増すことになります。

また、上述の通り、戸建と比較した場合の優位性は失われ定期的に見直される評価乖離率を考慮しつつ相続対策を行うのは困難なため節税策としてのタワマン投資は廃れていくと予想されます。
なお、改正については令和6年1月1日以降の相続・贈与への適用が予定されています。

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