労務・人材活性化

就業規則・雇用契約書・労働慣行の優先順位は?

経営VOL.163

クライアントであるKクリニックさんを訪れた際、院長先生から、『先日、スタッフが子供の学校行事に参加するために半日有給休暇を申請してきたので許可しました。後から確認すると就業規則には半日有休の規定は無かったのですが、それ以降、他のスタッフも当然のように半日有休休暇を申請するようになり、これを認めない訳にはいかずシフトを組むのに苦労しています…。もう、こうなったら就業規則を改訂するしかないのでしょうか?』というご相談がありました。

Kクリニックさんに限らず、就業規則に定めていないことに対し、柔軟な対応をすること自体は悪いことではありませんが、1人の例外を認めることにより公平性の観点から他のスタッフからの申し出を断れなくなり、これが続くと「例外」が「当たり前」となり、“就業規則に書いていなくても、言いさえすれば何とかなる”という風土ができてしまいます。
そして、いざ、何か問題が起きた場合、スタッフに対して就業規則に基づいた指導や処分を行おうとしても「例外」が跋扈している状況では、逆にトラブルになってしまいます。

結論から申し上げると、やはり、就業規則はクリニックのルールブックですので、クリニック経営に支障が生じないためにも、実態に則した内容にしておかなければいけないのです。

【全て決めることは不可能…暗黙のルールは認められるか】
社会通念上、或いはその事業所の中で、事実上の「制度」や「取り扱い」となって、それが労使間で当然に認められるという状況を『労働慣行』といい、次の要素で成立します。

1.ある事実上の取り扱いや制度と思われるものが、
2.反復し継続して行われており、特別なことがなければそれによるという形で定着化し、
3.その取り扱いや制度を一般労働者が認識しており、
4.就業規則の制定変更権限のある使用者明示または黙示的に是認しており、
5.労使ともにそれに従って処理・処遇しており事実上のルール化(規範化)している。

※ 法律に違反するような慣行は労働慣行とはなりません。

要は、『労働慣行』という暗黙のルールになってしまえば、就業規則より実態が優先されるようになるということです。つまり、Kクリニックさんの場合、規定が無い半日有給休暇の取得を当然のように長期間繰り返し、ルールとして労使間で認識されている状況ならば、就業規則に定めはなくても半日有休休暇の取得については実態が優先されるのです。

もし、このような経営者が納得できない労働慣行を改める場合は、使用者がスタッフに説明し、就業規則を変更すれば良いのですが、「不利益変更」に注意が必要となります。

【就業規則の変更=スタッフに不利益があった事例】
別のクリニックさんでの実話ですが、働き方改革の流れから就業規則の変更を行い、その際、退職金規定も変更し、「勤続3年以上で支払う」としていたものを「支給しない」ということにしました。当然、現スタッフは退職金があることを前提に入職している人ばかりですので、『退職金があるから安心して入職したのに、急に支払わないのはおかしい!』と「雇用契約書」を盾に全員から撤回を迫られてしまいました。
結局、就業規則の変更前に入職したスタッフについては従前の約束通り、退職金を支払うことになりました…。

これは、あくまで極端な事例で労働慣行とは異なりますが、就業規則の変更が不利益変更になる場合、事前に説明を行って合意を得なければいけないこと、また、就業規則だけでなく、スタッフとは「雇用契約書」を交わしており、それに基づいて働いてもらっていることを再認識しなければいけないということを示唆しており、ここは注意が必要なポイントです。

【「雇用契約書」と「就業規則」の内容が違う場合】
ちなみに、今回のように就業規則と雇用契約書の内容に違いがある場合、いずれの内容が優先されるのでしょうか。

就業規則で定める基準に達しない部分がある労働契約の場合、その部分については無効となり、無効となった部分は就業規則で定める基準が適用されます。例えば、パートさんに賞与は『支給しない』と雇用契約書に記載されていても、就業規則に『支給する』と記載されていれば支給が必要となり、逆に、就業規則の基準が労働契約を下回る場合は、雇用契約書が優先されることになります。例えば、就業規則にない手当が雇用契約書に記載されている場合、雇用契約書が優先され支給が必要となる場合があるのです。
これも非常に重要ですので、是非、覚えておいて下さい。

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