労務・人材活性化

『それは私の仕事ではありません』 をなくすには…?

経営VOL.164

先日、整形外科のM院長から、『クラークとして採用したスタッフに、ある日、手が空いているようだったので、物療の方を手伝うようにお願いしたところ、『それは私の仕事ではないのですが…』と素直に応じてもらえず(一応、やってはくれましたが)、その後も、人手不足から事あるごとに色々な業務をお願いしていたところ、ついに、『私はクラークとして入職したのに、こんなに雑用ばかりさせられるのであれば辞めます』と言われてしまいました。確かにクラークとして採用しましたが、“仕事”ですし、他の業務を手伝うのは当然だと思うのですが、どうすれば良いでしょうか?』というご相談がありました。

確かに、他院でも『看護師さんが看護業務以外は一切しない』とか、『勤務医さんが治療以外は何もしない』とか…、このような『専門職の職業倫理』が医療業界ではまだまだ残っているとよく聞きますし、また、これとは別に、どちらかと言えば若い年齢層のスタッフに特に多いようですが、「聞いていない」や「教えてもらっていない」ということを理由に「言われたことしかやらない」というご相談も、ここ数年急増しています。
つまり、「職場だから皆で協力して当然」、「言われなくても自分にできることを積極的にやって仕事を覚えないといけない」という、かつての「職業倫理観」が通用しなくなっており、時代と共に変化してしまったのかも知れません。

いずれにしても、人手不足の昨今、この状況を許容していると現場が回らないだけでなく、業務負荷の不公平感からスタッフの定着にも影響を及ぼしますので、今号では、M院長のご相談にお答えする形で紐解いていきたいと思います。

【(重要):面接で話しておくこと、契約書に記載すること】
新たにスタッフを募集する場合、クリニックとしては当然、「受付事務」や「看護補助」等、現時点で不足している当クリニックに必要な“職種”を募集しますし、求職者も自分に合致した“職種”に応募します。そして、色々な情報を集めて気に入れば「応募しよう」となりますし、クリニック側も求めている人材であれば「採用しよう」となります。
この流れは、採用活動の「当然の流れ」であり、当たり前過ぎて異論を挟む余地もないと思いますが、まず、この時点で非常に重要なことを押さえておかなければいけません。

それは、「自院の“仕事”とは何か?」という「仕事の定義」を明確にしておく、つまり、その職種の説明だけではなく、当院でどのように働いて欲しいのかを明確にするということです。

もう少し具体的に申しますと、基本、客商売は「サービス業」であり、サービスを提供してお客さんから対価を頂くという形です。このサービスの内容が「食事」であれば飲食店ですし、「洋服」であれば衣料品店です。
医療機関も「医療」を提供するサービス業であり、来院から会計までの時間を一貫して「満足」や「安心」を提供して対価を頂いています(医療機関を「サービス業」とすることに賛否はありますが、ここでは、何かを提供して対価を受け取るという意味でご理解ください)。そして、受付事務や看護師等、職種の違いとは「サービス提供の役割分担」に過ぎず、もし当院の理念が、「患者さん全てに安心を提供する」であるならば、各々の「役割」を通して、その理念の実現に寄与することが”仕事”になります。

つまり、クリニック内の業務全てが「患者さんのため」であり、もし他部門で手が足らない場合は、患者さんのために自分の「役割分担」を越えて手伝うのは当然の事となります(ライセンスに抵触する業務は除き)。さらに「患者さんのためを考えるのが仕事」という頭があれば、言われなくても自ずと動けるようになり、少なくとも、「これは私の仕事ではありません」という発想には至らないはずです。
よって、応募者との面接では、“職種”で採用はしているが、当院の“仕事”とは何か、どのように働いて欲しいかを先に伝えることで、入職の承諾により了承を得たことになります。そして、後々「聞いていない」と言われる可能性もありますので、雇用契約書に明記しておけば万全でしょう。

【既存のスタッフに対してはどうすれば良いか?】
既存のスタッフには、上記のような話をされていないことが多く、既に「セクショナリズム」の強いクリニックの風土になってしまっているかも知れません。
しかし、この人手不足の中、一般企業でも「多能工化(1人のスタッフが複数の業務を担えるように教育し、特定のスタッフしか出来ない業務をなくす取り組み)」が進み、DX化も進んでいるように、デジタル化に伴う個々のスキルアップは必須となっています。
旧態依然の考え方や働き方をするスタッフ(給与や休日、勤務時間等の要望が多いスタッフもですが)は、今後ますます働く場所がなくなり、逆に居心地の良い職場からは離れられないと予想されます。当院がそうならないためにも、今号のような『職業倫理教育』を思い切って施されることをお勧めします(お困りの際は是非ご相談下さい)。

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