労務・人材活性化

自然災害による休診、給与を払う必要は…?

経営VOL.151

先日、クライアントであるAクリニックの院長先生とお話しをしている中で、『台風などの影響で、鉄道が計画運休となった場合、スタッフが誰も出勤できないこともあり得ます。そうなると休診せざるを得ませんが、その場合、スタッフの給与はどうすれば良いのでしょうか?』というご質問がありました。

詳しくお聞きすると、院長先生は『ノーワーク・ノーペイの原則』というものがあり、また、医院の責任ではない「休診」で、売上がない状態にも関わらず、人件費だけは通常通りと支払うというのはおかしくないだろうか?と考えたとのことでした。

しかし、スタッフの立場からすれば、出勤したくても出来ない状態で、しかも欠勤とされ「欠勤控除」で給与が減ってしまうのは、到底、納得できないのではないでしょうか…。

大きな地震が頻発し、記録的豪雨や台風に見舞われることも多くなった昨今、このような「自然災害」によって休業を余儀なくされるということが、どの地域でも起こり得るようになりました。よって、今号では、台風シーズンが到来している時期というのもありますので、自然災害で休診を余儀なくされた場合、給与の支払いについて、どのように対応していけば良いか、色々なケースから考えていきたいと思います。

【最初に、「原理原則」を押さえておきましょう!!】
まず、原則としてですが…、自然災害(或いは、予測される災害への備え)で鉄道等が「計画運休」となり、スタッフが誰も出勤できずに休診となった場合、ノーワーク・ノーペイの原則に則り、その日は無給としても法的に問題ありません

詳しく申し上げますと、雇用されている労働者には、『労務提供の債務』があり、使用者が指定する勤務地で債務を履行することが原則となっています。そして、この合意によって締結した労働契約には『双務性』があり、労働者は労務の提供を行った場合、その対価である賃金の支払を使用者に請求する権利が発生するのですが、今回の場合のように労務の提供が履行されない時は、その請求権が生じないとされています(これが「ノーワーク・ノーペイの原則」です)
そして、この原則が適用されるのは、労務を提供できなかった原因が『労働者側にある』場合か『労使いずれの側にもない』場合であり、今回のような「計画運休」は原因が後者の「労使いずれの側にもない場合」に該当します。

ちなみに、労務を提供できなかった原因が『使用者側にある』場合、労働基準法第26条にて『労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければいけない』、つまり「休業手当」の支給が義務付けられています。

但し、確かに「原則」はそうかも知れませんが…、スタッフからすると、休みたくて休んでいる訳ではないのに給与を減らされることになり、納得ができないだけならまだしも、これが数日続いた場合、予定していた収入を得られず生活に困窮するかも知れません…。それでは、どうすれば良いでしょうか?

【話し合って、お互い納得できる実情に合わせた運用を…】
労働基準法で定められている内容は、法的に使用者に最低限遵守してもらいたい水準であり、これを越えた待遇を供することに何の問題もありません。また、当局も、「無給」という原則通りの運用を行っても差し支えないものの、労働者の賃金については、労使で十分に話し合った上で、なるべく労働者の不利益を回避することが望ましいという見解です。
よって、原則「無給」で差し支えないものの、この辺りを斟酌し、スタッフに安心してもらえる対応を行っているクリニックもあります。以下に例を挙げますので参考にされて下さい。 

□ 「特別有給休暇」とする(年次有給休暇とは別)

□ 「年次有給休暇」として取り扱う

□ 「公休日」扱いにする

□ 「休業手当」を支払う

□ これらの対応を就業規則に謳う

【ちなみに、途中帰宅を命じた場合はどうなるでしょうか?】
これもよくある話なのですが…、例えば、台風が接近して危険性が増し、また、交通機関が止まる可能性も鑑み、午後診療を中止し、帰宅を命じた場合はどうなるのでしょうか。

この場合、使用者の命令でスタッフを帰宅させるので、スタッフに決定権はなく、事業所都合での休業と考えます。

なぜならば、使用者が命令を出した時点では、医院にもスタッフにも何の被害もない状態であるため、『自然災害による休業』ではなく、予防的な帰宅命令となるからなのです。

よって、この場合、使用者都合で労働時間を繰り上げて労働を免除したということになるので、先述の通り、平均賃金の6割以上を「休業手当」として支払う必要があります。

但し、使用者命令ではなくスタッフに帰宅の判断を任せた場合、帰宅はスタッフの判断によるため、原則、「休業手当」の支払い義務はない、ということになります。

このように、使用者側の支払義務の有無はケースによって判断しにくい場合も多く、その都度、「払う」・「払わない」と言っているとスタッフに不信感を抱かれてしまいます。大切なスタッフを守る意味でも「法律で決まっている水準+α」程度の運営を常に心掛けて頂ければ間違いないと思われます。

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