財務・税務戦略

「所有者不明土地問題の解消」 と 「空き家に係る税制」

財務VOL.145

先月21日、「所有者不明の土地問題」を解消するための改正民法及び不動産登記法、相続土地国庫帰属法などが参院本会議で可決、成立しました。
そこで今号では本改正案の概要と、同様に社会問題化している「空き家問題」に関連する税金について解説していきます。


1.所有者不明の土地
日本では所有者不明の土地が年々増加の一途を辿っており、平成28年地籍調査では、国内における登記簿上の所有者が確認できてない土地の総面積の推計実に410万haに相当し九州(368万ha)よりも広いという衝撃的な数字が出ています。
今回の改正案ではこういった「所有者不明土地」の発生の抑制、及び土地利用の円滑化を図るため次の見直しが行われました。

(1)登記の義務化・簡略化
これまで任意だった相続登記を義務化、土地や建物の相続を知った日から3年以内登記を行わなければならなくなります。

また所有者の住所変更についても2年以内の変更登記を義務化怠った場合はそれぞれ10万円以下5万円以下過料(刑罰ではなく行政罰)が課されます。

ただし、諸問題(遺産分割協議の難航など)により3年以内に登記ができない場合も当然考えられるため、その解決策として「相続人申告登記(仮称)」制度が新設されます。
これは、法務局に対して「自身が死亡した登記名義人の相続人である旨を申し出る」ための手続きで、これを行うことで一旦、登記申請義務は果たしたものとみなされます(過料免除)

この手続きは相続人各人が単独で行うことが可能であり、また添付書面も簡易化される予定です(具体的には未定)。
ただし、あくまで報告的な仮の登記に過ぎず、その後に遺産分割協議が成立した場合等には改めて登記申請が必要となります。

相続登記は2024年住所変更登記は2026年を目途に施行予定です。

(2)遺産分割協議の期限の設定
これまで期限の定めのなかった遺産分割協議について、相続開始から10年以内という期限が設けられ過ぎた場合には法定相続分による分割がされたものとみなし、共有財産として取り扱うことになります。

(3)所有者不明の土地の売却が容易に
登記簿上の所有者が不明な土地について、裁判所管理人を選び、所有者に代わり管理や売却を行える制度新設されます。
所在不明共有者がいる場合についても、裁判所関与の下、その持分相当額を供託することで売却ができるようになります。

(4)土地の国庫への帰属
相続又は遺贈により市場価値の乏しい土地を取得した者が、法務大臣に承認申請書等を提出し、法務局の審査を受け、10年分の管理費相当額を納めれば、その土地を国庫に納付することができるようになります。
ただし対象は更地のみで、担保権が設定されていない土壌汚染がないなどの条件が付されています。
(2)、(3)(4)については2023年を目途に施行予定です。

2.空き家に係る税制
「所有者不明土地問題」同様、全国で増加しているのが「空き家問題」です。
平成30年の調査では全国で846万戸、全住宅の実に13.55%(7戸に1戸)を空き家が占め、大きな社会問題となっています。
ここでは空き家問題に関連して、既に施行されている税制について2点ご紹介していきます。

(1)空き家の固定資産税
まず1つ目ですが、空き家の建つ「敷地」について、最大で6倍もの固定資産税が課される場合があることはご存知でしょうか。

住宅用(空き家含む)の敷地に係る固定資産税等は、「住宅用地特例」という課税標準の軽減措置がとられており、その軽減率

固定資産税:200㎡以下まで1/6課税、200㎡超は1/3課税

都市計画税:200㎡以下まで1/3課税、200㎡超は2/3課税

というかなり大きなものです。

この軽減措置が、国土交通省が5年毎に行っている空き家の調査「特定空家」に該当すると判断された場合、適用除外とされることがあるのです。

「特定空家」とは、具体的には
倒壊等著しく保安上危険となる恐れがある

②著しく衛生上有害となる恐れがある(ゴミの放置など)

③適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている

④その他周辺の生活環境の保全を図るため放置が不適切

といった状態の空き家を指します。

但し、該当すれば一発アウトというわけではありません。
まずは市町村から修繕など必要な措置についての助言・指導書面により行われます。
これに従わなかった場合に勧告が行われ、それに伴い「住宅用地特例」の対象からの除外が行われます。最大1/6課税がなくなるので6倍になってしまうというわけです。

こちらは平成27年5月26日から既に施行されています。

(2)空き家を売った時の優遇税制
利用価値のない空き家は売ってしまうのも一つの手です。
時限立法ですが、空き家を売った場合の特別控除があります。
相続又は遺贈により取得した家屋又は敷地等を、平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間に売り、一定の要件を満たす場合、譲渡所得の金額から3,000万円まで控除することができます。
ただし、対象となるのは昭和56年5月31日以前建築(旧耐震基準)の建物のみで、耐震リフォームを行う、又は取壊して更地にしたうえで(敷地を)売却しなければなりません。

その他にも
売却額が1億円以下であること

相続開始直前において被相続人が1人暮らしであったこと

売却時まで空き家であること

相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日

までに売却することなどの要件があります。

やや条件が厳しいですが、適用可能であれば利用しない手はないでしょう。

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