労務・人材活性化

労働条件明示ルールの改正について(解説)

経営VOL.179

既にご存知の先生も多いかと存じますが、「労働基準法施行規則(労基則)」及び「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(「雇止めに関する基準」)」の改正が行われ、労働条件明示のルールが来月から変わります
労働条件の明示は労働基準法第15条に定められた義務であり、これに違反した事業主には30万円以下の罰金が科せられる可能性があるだけでなく、人材不足の中、せっかく応募してくれた求職者の信頼を損ねないためにも、しっかり対応したいところですので、今号では、来月変更されるルールの内容及び、その解説をさせて頂きます。 

【そもそも、労働条件明示のルールとは?】
使用者は労働者と労働契約を結ぶ際、①労働契約の期間②有期契約の場合は更新の有無と更新の基準③就業場所及び業務内容④始業・終業時間、休憩時間、休日等⑤賃金・昇給等⑥退職について明示しなければいけません(絶対的明示事項)
そして、これは書面による交付が必要なのですが、平成31年4月以降労働者が希望した場合(あくまで労働者からの希望が前提)、FAXや電子メール、SNS等でも明示が可能となっています(但し、SMS:ショートメッセージサービスは禁止されてはいないもののファイル添付等ができないため望ましくないとされています)。
尚、絶対的明示事項以外の事項(退職金、賞与、表彰及び制裁、休職等)について事業所に定めがある場合は、これらも記載が必要となります(相対的明示事項)
もし、これらを遵守していないと思い当たる先生方は、これを機に、改訂前の今月中に整備されることをお勧めします。詳しくは厚労省のHPに掲載されておりますのでご参考にして頂ければと存じますが、整備のサポートをご希望される場合は、是非、弊社までご相談下さい(06-6262-2256)。 

【具体的な変更内容とは?(変更というよりは追加です)】
今回、変更(追加)された内容は下記の通り3つです。

≪全労働者に対して(無期雇用・有期雇用共通≫

1)「就業場所」「業務」に加え、その「変更の範囲」
(雇入れ後、異動や業務変更の可能性)を記載。

※無期雇用契約の場合は、この1つのみです。
(これ以外の追加は、全て有期雇用の場合)

 この1)が追加された理由は、働き方の多様化により、勤務地・職種が限定される正社員(いわゆる限定正社員)のニーズが増えたためであり、医療機関に於いても、異動先(分院や介護施設等の関連施設)がある場合、また、人手不足の昨今、色々な職務をこなしてもらう可能性もありますので、この項目は積極的に活用すべきかと思われます。

尚、異動や職務変更の可能性はあるものの、現時点では不明確な場合、「企業の定める就業場所や業務内容に従事する」という形で明示する方法も許可されています

≪有期雇用契約者に対して≫
2)契約更新上限の明示
(上限の有無:更新何回まで、通算何年まで等)

3)無期転換ルールに関する明示
(5年超で無期の申し込みが可能、またその条件)

2)及び3)が追加された理由は、平成25年4月1日以降に始まっていながら未だ周知されていない「無期転換ルールの徹底」、つまり、有期契約者の雇用を守るためです。

 無期転換ルールとは、有期契約が5年を超えると「無期転換申込権」が発生し、申し込まれると事業主は断れないというルールのことで、現在でも、未だに無期転換ルールから逃れる意図の「雇止め」が横行しているために、2)において、最初から5年を超える可能性があるのかどうかを明確にし、3)において、5年を超えた場合は、無期転換の申し込みが可能であることを伝えること、その場合の労働条件も明示することにより、安心して働けるようにしたということなのです。加えて、事業主が契約の途中で急に条件を変えて「雇止め」を行わないように、更新の上限を新たに設ける場合や短縮する場合は、理由の説明が必須となりました(上限の撤廃や延長の場合は義務の対象外で必要ありません)。

【今回の改正の目的=労使トラブル回避と労働者保護】
年々、契約内容の不備や曖昧さから起こるトラブルが増加しているため、明示内容を労使で正確に共有することで、トラブルを回避し、労働者に安心して働いてもらうように今回は国が主導したのですが、本来、これは各事業所が行わなければいけない「労務管理の基本」ですので、これを機に、もし、自院の労務管理において不確かな部分や曖昧な部分があると思われる先生方は、一度、抜本的に見直してみてはいかがでしょうか。こちらも必要であればご相談下さい。

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