財務・税務戦略

知っておきたい相続④~不動産相続編~

財務VOL.160

不動産は相続財産に占める割合が多く、また処分もしづらいので分割協議でもめる原因にもなりがちです。今号では、そんな不動産関係の相続で気を付けたいポイントをいくつかピックアップして解説していきます。

1.実家の共有持分化は極力避けるべき
相続財産の大半を不動産(実家)が占める場合、相続人間の軋轢を避けるために共有持分で相続を、と考える方が一定数いらっしゃいますが、これはあまりお勧めできません。
何故なら共有持分として相続しても、実際に便益を受けるのは居住の用に供している相続人だけで、他の相続人には何らメリットがないので、結局のところ不公平感が生まれるからです。
かといって、その家や土地を売却して現金化し、配分をするには共有者全員の同意が必要で、少なくとも現在住んでいる相続人からの反発は必至です。
そのうえ、全体の売買には全員の同意が必要なのに、自分の持分だけなら勝手に売ることが可能なので、一般の人が買取ることはまずありませんが、不動産業者の中には、この共有持分を買い取って、他の共有者(親族)に高値で売りつける、というようなことをしているところもあり、そんなことになれば確実に親族間で禍根が残ります。

また、共有持分による相続を繰り返すと代を重ねるごとに共有者が増え、将来的に処分が困難になることも考えられます。余計なトラブルを避けるためには、遺言書で取得者を指定するなどして、共有持分化を避けるべきです。

2.申告期限までに財産分割が未確定の場合のデメリット
実家の不動産を誰が相続するか話がまとまらないままに申告期限がきてしまった、というのは良くある話ですが、その場合でも相続税の申告期限・納期限は変わりません。
相続開始から10カ月が経った時点で、民法上の相続分に従って相続があったものと仮定して相続税を計算することとなります。
この際、問題となるのが「小規模宅地等の特例」及び「配偶者の税額軽減の特例」が使用できないということです。
詳細な説明は省きますが、「小規模宅地等の特例」とは、不動産の相続税評価額を最大80%減額できる規定「配偶者の税額軽減」は、配偶者について、最低でも1億6千万までの財産なら相続税がかからないという規定です。
どちらも破格の軽減規定ですが、その適用要件には“遺産分割が確定している”ことが含まれています。
そのため、分割協議がまとまらない状態での申告を行うと、多額の相続税額が発生することになってしまいます。しかも、未分割のため不動産の売却などもできず、一時的とはいえ、相続人は多額の納税資金を負担しなければなりません。

ちなみに、改めて分割協議が整った場合「更正の請求」という手続きをすることで「小規模宅地等」と「配偶者の税額軽減」の適用を受けることが可能です。ただし、これには「申告期限後3年以内の分割見込書」期限内申告に添付しておく必要があり、失念した場合は特例の適用は受けられませんので注意が必要です。

3.小規模宅地等の特例が使えないケース
「小規模宅地等の特例」は前述の通り、かなり大きな軽減規定ですが、実は次のような場合には適用を受けることができませんので注意が必要です。

(1)特定居住用宅地等
①持ち家のある子供
「特定居住用宅地等」は、故人が居住の用に供していた土地につき、330㎡を上限として80%減額を受けられる規定です。
この規定の適用を受けられるのは①配偶者②同居親族③別居の「家なき子」限られます。
つまり、子供に持ち家があり別居している場合にはこの規定は適用ができません。しかし、同じ別居でも、相続開始前3年以内に自身又は配偶者の持ち家に住んでいなければ特例の適用が受けられた(上記③「家なき子」)ので、持ち家の名義を子供に変更するといった方法が一時期流行りました。
しかし、平成30年度改正により、持ち家の所有者の範囲が3親等内の親族及び特別な関係のある法人(親族が経営する法人など)まで拡大、また、「現在住んでいる家屋を過去に所有していたことがない」という要件が追加されたことで、現在は使えなくなっています。

 ②故人が老人ホームで亡くなった場合の注意点
故人に介護などが必要となり老人ホームに移り、そこで亡くなった場合も、小規模宅地等の適用を受けることは可能です。
ただし、適用には次の要件があるので、事前の確認が不可欠です。

1
.要介護認定等を受けている
健康な状態で入居した場合は適用できません。

2.ホームに入居後、自宅を他の用途に使用しない
空き家になるからと事業用又は賃貸用にすると適用できません

3.届出が出されている老人ホームである
いわゆる無届ホームに入居すると適用できません。
ちなみに令和2年時点で全国に600件以上存在しました。

 (2)特定同族会社事業用宅地等
医療法人の底地を個人が所有しており、その医療法人の理事である相続人がその土地を相続した場合に使える規定で、400㎡を上限として80%の減額が使えます。
ただし、この規定は相続人が「出資持分の50%超を有している」ことが要件となっていますので、出資の概念がない「持分の定めのない医療法人」の底地については適用ができません。

ちなみに、MS法人の底地を個人が所有している場合、同様に出資持分の50%超を有する役員がその土地を相続すれば、この規定の適用が考えられますが、そのMS法人が「不動産貸付業(対病院含む)」を行っている場合にはこれも適用対象外となります。

事業用の土地であれば無条件に80%減を受けられる訳ではないので、相続の計画を立てるときはそれを織り込む必要があります。
なお、(1)と(2)の規定は併用が可能なので、「自宅」と「持分のある医療法人」の底地を有している場合、要件を満たせば、それぞれの上限値で330㎡+400㎡の最大730㎡まで80%減が可能です。

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