財務・税務戦略

インボイス実務対応の注意点、その②

財務VOL.172

いよいよ来月よりインボイス制度が開始となります。
今号では前号に引き続き、インボイス制度の実務対応について、頻出するものをいくつか追加で解説します。

1.1万円未満のインボイスが不要となる特例
基準期間(2年前)の課税売上高(消費税のかかる売上高)が1億円以下、または、特定期間(前年の前半6カ月)の課税売上高が5千万円以下の事業者については、税込1万円未満(9,999円まで)の仕入・経費等の取引について、インボイスの保存がなくとも帳簿の保存のみで、消費税の計算上、その取引に係る消費税を控除することが可能とされました。
ご存知の通り、医療機関は売上の多くが非課税となる保険診療収入であるため、よほど自由診療収入等が多い医院以外はこの規定の適用が受けることが可能です。

以下に本規定の注意すべき点を挙げていきます。

(1)期限付きの経過措置
この規定は、令和5年10月1日から令和11年9月30日まで、6年間の期限付き経過措置となっています。
令和11年10月1日以降は、たとえ期の途中であっても当該規定の適用はなくなりますので、1万円未満の仕入等についても、漏れなくインボイスの保存が必要となります。

(2)納税義務とは判定方法が違う
消費税の納税義務の判定は、2年前の課税売上高が基準を超えていれば即アウトですが、この規定の判定は、2年前の課税売上高が1億円を超えていても、前年の前半6カ月の課税売上高が5千万円以下であれば適用を受けられる、という2段階の判定になっています。ただし、納税義務の判定で可能であった、前年の前半6カ月の課税売上高に代えた給与の額による判定使えません。

(3)1万円未満なら全て控除可能
当該規定では、原則とは異なり、たとえ取引先が免税事業者であっても消費税を控除することが可能というメリットもあります。なお、金額が1万円未満であるかどうかの判定ですが、一回の取引額により判定することとなっています。一回の取引とは、請求書や領収書等の証票の単位により判定することとされています。

つまり、5,000円と7,000円の商品を同時に購入した場合などは、合計1万円以上となるため適用外になるものの、別々に購入すれば適用可能となります。

2.ETCカードのインボイス対応
前号にて軽く触れましたが、ETCカードに係るインボイスについて、詳細を解説していきます。
ETCカードについては、以下の種類があり、それぞれ次のような対応が必要です。

  • ETCパーソナルカード
  • ETCコーポレートカード
  • ETCクレジットカード

まず“ETCパーソナルカード及び“ETCコーポレートカードについてですが、こちらは高速道路会社又はそれらが運営する事務局が発行しているETCカードになります。
これらのカードについては、発行元兼運営元である高速道路会社又は事務局から利用者宛に請求書としてインボイスが送付されることとなっていますので、そちらを保管していだければ結構です。

次に、多くの方がご利用されている“ETCクレジットカードですが、こちらはカード会社からインボイスが送られてくるということはありませんインボイスはあくまで運営元の事業者しか発行できないためです。そのため、このカードをご利用の場合には、「ETC利用照会サービス」というウェブサービスに登録し、「利用証明書」をダウンロードして取得していただく必要があります。となると、決算期ごとに毎年1年分全てのETC利用について「利用明細書」をとらなければならないのか?という疑問が湧くわけですが、これについて今月15日、国税庁が「お問い合わせの多いご質問」にて柔軟な対応を認める意向を示しました。

具体的には、高速道路の利用が多頻度にわたるなどの事情により、全ての高速道路の利用に係る「利用証明書」の保存が困難な時は、クレジットカード明細と、利用した高速道路会社の任意の一取引に係る「利用証明書」をダウンロードし、併せて保存することで差し支えない、つまり、令和5年10月1日以後高速道路会社ごと一回だけ「利用証明書」を取得・保存しておけば、あとは従来通りクレジットカード明細を保存するだけでインボイスとして認める、ということです。

結果としてETC利用照会サービスへの登録が必要な点は変わりありませんが、利用自体は一度で済むということで、事務負担は大幅に軽減され現実的なラインになったといえます。

 

3.出張旅費に係るインボイスの取り扱い
【出張旅費特例】
最後に、従業員等の出張旅費に係るインボイスの取り扱いです。

医院が従業員等に対して支給する出張旅費・宿泊費・日当等のうち、その出張に通常必要であると認められるものについては、「出張旅費特例」という規定により、インボイスの保存は不要で帳簿の保存のみで消費税の控除が認められることとなります。

ただし、この規定は医院が従業員に金銭支給(実費精算又は定額支給いずれにせよ)した場合限定ですので、医院で切符等を買って支給した場合医院でカード決済をした場合などは対象外です。

ですが、医院が決済等を行った場合であっても、鉄道・バス・船舶タクシー・飛行機は対象外の切符等については、税込3万円以下であればインボイスの保存が免除される【公共交通機関特例もありますので、上記2つの特例をまとめると、

① 出張旅費として従業員に支給するものは、交通費・宿泊費を問わず通常認められる範囲であればインボイス不要

② 医院が購入・決済する場合は、鉄道・バス・船舶に限り、税込3万円までインボイス不要

③ ①と②以外はインボイスが必要

となります(一部例外あり)。
ただ、インボイスの保存は不要ですが、税務署対策として出張旅費規程精算書・報告書の作成は必要ですので、ご注意ください

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