労務・人材活性化

事業承継を検討する時期はいつが良いか?

経営VOL.143

『このままでは、後継者不在のため閉院するクリニックが増える!』と以前から指摘されておりましたが、最近、それを理由に閉院となってしまうケースが増え始めております。

中には、開業以来、そうならないために、お子様を後継者として育てたにも関わらず、結局、承継してくれなかったという医院さんや、勤務医でもいてくれたら承継を打診することが出来るのに、いないためにそれも出来ず、どうすれば良いか悶々と悩んだ挙句、結局、閉院した医院さんもありました。

せっかく、開業して長年苦労して地域に根付いた医院なのに、お子様をはじめとした「お身内」や「勤務医」という後継者候補がいない場合は閉院するしかないのでしょうか。何とかして地域のためにも存続する方法はないのでしょうか。

このような場合、第三者承継(M&A)という選択肢があります。M&Aと聞くと、『身売り』・『乗っ取り』等、良くないイメージをお持ちの先生方も多いかも知れませんが、そうではなく、『長年、先生方が診療されてきた苦労を無にすることなく、その価値を認めてもらい、新たに開業したい先生に引き継いでもらう』という「健全」で「前向き」な取引なのです。

今号では、お身内や勤務医という承継候補者が不在で、今後どうしようかお悩みの先生方に、この「第三者M&A」の考え方についてお話をさせて頂きたいと思います。

【承継への具体的な行動はいつから始めるのが良いか?】
「事業承継」と聞けば、勇退が近い院長の医院を引き継ぐイメージ、つまり、承継の数年前から話し合って…というイメージがあるかも知れませんが、大抵の場合、院長の勇退が近い医院は「企業の成長サイクル」でいうところの「衰退期(斜陽期)」であることが多く、この時期では「遅い」のです。
と申しますのは、承継する側の目線で考えると、先生の勇退年齢が近く、患者数も全盛期に比べて少ない医院を引き継ぐ訳ですから、かなり頑張らないと盛り返すことが出来ないと考えますし、これからの自身の生活も不安になります。

つまり、衰退期の医院は承継する「メリット」がないので、当然、承継希望者も見つかりにくいですし、見つかったとしても、かなりの安値で交渉されてしまうことになり、勇退される先生の「老後資金」への影響も多大となります。

そうなると、売買金額の折り合いが付かず、結局、破談になってしまい(実は、この「衰退期」での交渉で破談するケースが最も多いのです)最終的に承継者が見つからず、心ならずも閉院せざるを得ない状況になってしまうのです。

もちろん、衰退期の医院を安価で承継し、新たな「改革」を起こして患者さんを呼び戻すということ考える承継者もいるかも知れませんが、一度、離れた患者さんを呼び戻すのはハードルが高いですし、それをするぐらいであれば「新規開業」を選択されるので、やはり、可能性は低いと思われます。

それでは、医院がどのような状態の時に、承継に向けで動き出せば良いのでしょうか。

【医院として脂が乗っている時期を逃してはいけません!】
前述した「企業の成長サイクル」とは、下記の4つのフェーズ(区切り・段階)に分かれると言われています(↓)。

幼年期 ( 事業の立ち上げ時期 )

成長期 ( 事業が拡大する時期 )

成熟期 ( 事業が安定する時期 )

衰退期 ( 事業が失速する時期 )

当然、各フェーズに到達する年数は各医院さんによって様々ですので、一概に「開業して何年目」と定義することは出来ませんが、開業後、医院経営が安定する「成熟期」が事業承継を考えるのに適した時期なのです。

何故ならば、新規に開業し、まずは、経営を立ち上げることに尽力し(幼年期)、その結果、患者さんが徐々に増えて、院内の体制もそれに合わせて整え(成長期)、その後、ピークを迎えますが、当然、自分の年齢を鑑みても、このピークを維持し続けることは難しいと感じ、そこで、「今後どうしようか」と一旦、立ち止まって考えるのが「成熟期」なのです。

多くの先生方は、この時に、「いつまで診療するか(いつ勇退するか)」について漠然とお考えになるのですが、日々、多くの患者さんに忙殺され、まだまだ先の話でもあるので、ついつい日常に身を委ねて忘れてしまい、本当に考えなければいけない時期を迎えた頃には、既に「衰退期」に入ってしまっており、結果、不本意な結末を迎えてしまうのです。

【ピークを迎えたら「リタイアメントプラン」を考えましょう!】
当然、承継する側も「成熟期」を迎えている医院は魅力的であり、開業の「成功事例」でもあるので希望者も見つかりやすく、交渉も先生の希望に沿った形で進めやすくなる可能性が高くなります。従いまして、医院経営が成熟期に入っていると感じておられる先生方、まだ先の話と思って何もお考えでない先生方におかれましては、今から「リタイアメントプラン(老後の人生設計)を考え、いざという時、慌てずに有利に対応できるよう、ご準備しておいて頂くことをお勧めします。

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