財務・税務戦略

「インボイス制度」 と、その「影響」 について

財務VOL.149

令和5年10月1日より導入される消費税の「インボイス制度」についてご存知でしょうか。実はこの制度、消費税法の根幹から変えるような重大な制度改正なのですが、言葉は聞いたことがあるものの、その内容についてはよく知らないという方が多いのが実情です。

そこで本レポートでは、今号から複数回に渡りこの「インボイス制度」についてご紹介をしていきます。

1.「インボイス制度」とは 
ご承知の通り、令和元年10月に消費税率が10%へ引き上げられましたが、この時、食品新聞について8%の軽減税率が適用され、日本国内の消費税率について10%と8%の複数税率制度が実施されることとなりました。その際に併せて正式に発表されたのが、この「インボイス制度」の導入です。

当時、軽減税率の話題の陰に隠れていましたが、財務省からすれば、この「インボイス制度」の導入こそが改正の大本命だったのです。

制度の趣旨としては、2つの税率が混在することで複雑化した計算方式の下でも正確な税額を計算できるよう、「適用税率や税額の記載を義務付けた請求書」=「インボイス(適格請求書)」を発行し、それをもとに消費税額を計算しましょう、というものです。

この「インボイス制度」について、まずは消費税制度の基本的な仕組みを踏まえて簡単にご説明します。

  • 消費税は「売上で預かった消費税」から「仕入・経費等で支払った消費税」を差し引いた差額を各事業者が国に納付する仕組みになっています。したがって消費税分がプラスになったりマイナスになったりと消費税によって事業者に損得が発生することは原則としてはありません(消費税を負担するのは最終消費者)。
  • 上述した「仕入・経費等で支払った消費税」を差し引くためには、仕入先から発行を受けた請求書や領収書を事業者が保存しておくことがこれまでの要件でした。
  • この保存要件の対象となるものが、令和5年10月1日以降より一定の要件を満たした「インボイス(適格請求書)」のみに置き換えられます。
  • そして、この「インボイス(適格請求書)」を発行することができるのは消費税を納めている「課税事業者」のみとなります。

この④の内容が中小事業者にとって大きな影響を及ぼすポイントとなってきます。

2.「インボイス制度」が与える影響について
「インボイス制度」が与える影響についてご説明する前に、まず最初に、既に皆様もご存じの「免税事業者」について再確認します。

現行の消費税制度においては、年間の課税売上(消費税の係る売上)が1,000万円以下小規模な事業者については消費税の納税が免除されています。こうした免除を受けた事業者を「免税事業者」といい、逆に納税義務を負っている事業者(年間課税売上1,000万円超)を「課税事業者」といいます。

上述の通り、新制度導入後は仕入・経費等で支払った消費税を差し引くには「インボイス」が必須であり、かつ、「インボイス」の交付は「課税事業者」にしかできません。

このことは、何を意味するのでしょうか?

すなわち“「免税事業者」から物品を購入(サービスの提供を受ける)しても、その分の消費税を差し引くことができなくなる”ということを意味しています。

仮に同じ商品を取扱っている会社が2社あり、A社は「課税事業者」、B社は「免税事業者」だったとしましょう。

同じ11,000円(消費税1,000円込み)の商品を購入した場合、A社から購入した場合は消費税の納付額から1,000円を差し引くことができますが、B社から商品を購入した場合はこれができません。

結果、両社からの仕入額が同じであるにも係わらず、B社から購入した場合には当方での消費税の納付額が1,000円増えるという不利益を被ることになります。

このような状況に直面した場合に皆様はどのように対応されるでしょうか?従前からの取引関係がよほど深かったり、同族関係者あるいは懇意の取引先であったり、または取引額が僅少であったり・・・等、消費税納付額で被るデメリットを上回る何らかのメリットが期待できるようなケースでない限り、取引先を「課税事業者」に変更するという選択肢を検討せざるを得ないのではないでしょうか。

このように「インボイス制度」の導入により免税事業者」が各種商取引から排除されてしまうことが懸念されます。

では、「免税事業者」がこのような状況を回避する対策はあるのでしょうか?

「免税事業者」は消費者から預かった消費税の納付を免除される訳ですから、その分は結果として自らの利益となります。

これがいわゆる「益税」とされる問題なのですが、上述のような新制度導入による商取引から締め出されるリスクを回避するためには、この「益税」のメリットを捨ててでも小規模事業者の多くが自ら「課税事業者」になることを選択することが想定されます。

現在、我が国の事業者のうち「免税事業者」法人・個人合わせて500万件以上あり、財務省の試算では「インボイス制度」の導入によって、うち161万件が「課税事業者」を選択(自ら納税義務者となることを選ぶ)すると予想されており、これにより年間約2,480億円の税収増を見込んでいるようです。つまり、これこそが財務省が達成したかった改正の大きな目的と言えます。

また、財務省の推計では、現在の小規模事業者が「課税事業者」となった場合、平均で年間15万円程度の消費税納付額の負担が増すと見込んでいるようですが、小規模事業者にとっては決して小さくはない数字です。さらに、これまで軽減されていた消費税計算の事務負担まで増加することになりますが、今までが特別な恩恵を受けてきたのだと気持ちを切り替え、粛々と対応していく他ありません。

最後に、「インボイス制度」は医療機関にどのような影響を与えるのでしょうか?

ご存知のように、医療機関の主たる収入である保険収入は消費税が非課税とされていますが、歯科や美容外科等の自由診療、内科・小児科等の予防接種や企業向けの健康診断等は消費税の課税対象売上となるため、「課税事業者」・「免税事業者」・「(今回説明を省きましたが)簡易課税制度を適用」している場合等、様々なパターンが検討課題となります。次号では、「インボイス制度」の医療機関への影響や注意点等について、具体的に解説する予定です。

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