昨年12月19日に政府与党より、令和8年度の「税制改正大綱」の発表がありましたので、今回はこれについて解説していきます。なお、本年度は見どころが多いため、前後編での二部構成となっています。
1.年収の壁引き上げ
所得税の「年収の壁(課税される下限収入)」が令和7年度で設定された“160万円”から更に“178万円”に引き上げられます。対象は主に年収665万円以下の中間層(納税者の約8割)で数千円~数万円程度の減税となる見込みです。
今回の改正では、物価上昇に連動して基礎控除等を引き上げる仕組みが導入され、今後は直近2年間の消費者物価指数の上昇率に応じて控除額が調整されることになります。“178万円”は令和8年,9年(2年間)の暫定金額で物価の下落が無ければ今後もこの水準が維持される見込みです。なお、引き上げ分の調整は前年度同様に年末調整で行われます。
また、前年度の改正同様、“178万円”は「本人に所得税が課されるか」のラインであり、「扶養にできるか」のラインは136万円(令和7年の123万円からアップ)となります。
一方、住民税の「年収の壁」は約119万円(改正前約110万円)と微増に留まっています(令和9年度の住民税より)。やはり地方財政への配慮が大きいようです。
2.賃上げ促進税制の廃止・縮小
大企業・中堅企業向けは廃止、中小企業については令和8年度は現行制度を維持し、期限到来時(令和9年3月31日)に必要な見直しを検討するとされ、但し下記の改正が予定されています。
この制度は、増加した給与の額に控除率を乗じて算出した金額を法人税(所得税)から控除できる制度ですが、今回の改正により、従業員の教育訓練費の増加による控除率の上乗せ措置(10%)が廃止されます(具体的な適用時期は未定)。
このため、最大控除率が45%から35%に縮小となります。
3.暗号資産の分離課税化
暗号資産から生じる所得が「分離課税」の対象になります。
上場株式等の金融商品から生じる所得が分離課税(20.315%)なのに対し、暗号資産から生じる所得は総合課税(最大55.945%)と著しく不利な扱いとなっていたものが是正される見込みです。
また、損失が出た場合に翌年以降3年間の繰越が可能となる仕組みも導入される予定です。
とはいえ、対象は金融庁に登録されている暗号資産(ホワイトリスト銘柄)に限定される可能性が高く、また法整備の必要性から、実施も令和10年からとなる見込みです。
4.ふるさと納税の上限追加
高所得者の「ふるさと納税」に関連して、所得に応じて上限なく増加する特例控除額について新たに上限が設けられます。
給与収入1億円相当の場合を上限設定の目安(※要件ではありません)としておりますので、実際に影響を受ける方は限定的です。
因みに、給与収入1億円で寄附損が生じない「ふるさと納税限度額となる寄附額」は約440万円となります(基礎控除のみで試算)。
5.貸付用不動産の評価方法の見直し(相続税)
貸付用不動産は時価の4~6割程度の評価額になることが多く、また、小規模宅地等の特例の適用によりさらに評価額を下げることも可能なため、相続対策として駆け込み節税スキームとして従前より広く利用されてきましたが、今回メスが入ることになります。
具体的には、次の通り評価されることとなります。
(1)貸付用不動産
取得または新築後5年以内の相続(又は贈与)の場合、通常の取引価額※によって評価する。
(※原則は通常の取引価額ですが、課税上弊害がない限り取得価額を基に地価の変動等を考慮した価額の80%でも可)
(2)不動産小口化商品
取得時期に関わらず、通常の取引価額で評価する。
相続等の5年以内に購入した「貸付用不動産」について時価で評価するという内容です。ただし、80%を乗じることはできるので完全に節税効果が無くなるというわけではないようです(現行の期待値よりは下がるでしょうが)。
ここから更に借地権や借家権部分を差し引いて評価できるかは大綱上では明確にされていませんが、趣旨を考えると差し引けない公算が大きいように予想されます。
なお、「不動産小口化商品」については実質的に金融商品であるとの考えから、いつ取得したものであろうと全て時価(80%評価もなし)となるため節税効果は完全に無くなります。
既に節税商品として販売されたものについても十分に適用される可能性が高いため、少なからぬインパクトのある改正です。
なお、この改正は令和9年1月1日以降の相続・贈与により取得した貸付用不動産について適用される予定です。
6.少額減価償却資産の枠が拡大
中小企業の少額減価償却資産(即時経費化できる資産)の対象金額が30万円未満から40万円未満に引き上げられる予定です。
ただし、年間合計300万円までという限度額については大綱で触れられていないため据え置きとなる可能性が高いです。
なお、開始時期は法改正を待つため、現時点では未定です。
7.防衛費増税
先般より先送りされていましたが、防衛力強化のための安定的な財源として防衛特別所得税(仮)が創設されます。
現行の復興特別所得税(2.1%)の期限が当初の令和19年末から令和29年末まで10年間延長された上で、令和9年以降は合計税率が変わらずに内訳が「防衛特別所得税1%+復興特別所得税1.1%」と変更されます。
内訳が変わっただけで税率は変わらないものの、適用期限が10年間も延長された点で影響は決して小さくありません。


