労務・人材活性化

仕事ができる=優秀なスタッフではない?

経営VOL.176

先日、『クリニック無料経営相談』にお申込み頂いたE医院の院長から、“新しいスタッフが続かなくて困っている”というご相談を受けました。詳細をお聞きすると、教育係は長年勤めてくれている“優秀なNさん”が担当しているそうなのですが、指導が厳しいらしく、結局、頑張っていたスタッフでも音を上げて辞めてしまう、という流れが続いているとのことでした。もちろん、院長も今まで手をこまねいていた訳ではなく双方の話を聞いて改善を試みたこともあったのですが、当然、「教える側」と「教わる側」の意見や受け取り方は違い、逆に、院長としては、どうしてもNさんの方が正しいと感じ、結局、「続かないのは教えられる側が原因」と自分に言い聞かせて半ば諦めていたそうですが、それでは何も解決せず、何も変わらないので、今回、相談に訪れたということでした。

 院長曰く、そのNさんは、事務はもちろん、患者対応も抜群で、また、院長の考えを「先読み」して動いてくれる機転も持つ本当に“優秀なスタッフ”で、このNさんが教育するのだから、当然、教えられた新人さんは、Nさんほどではなくても優秀になってくれると思っていたとのこと。
しかし、そうなっていない現状において、その原因を「教わる側」に求めないとすれば、改めてNさんについての検証、つまり、「Nさんは優秀である」という前提条件についての検証が必要と院長にお伝えし、この機会に一緒に考えてみることにしました。

【“スタッフ”とは?“優秀”とは?=定義を再確認!!】
まず、スタッフとは「雇用契約」に基づいて働く「労働者」であり、労働者としての数々の法的な義務を遵守しなければいけません。下記に、数ある義務の一部を抜粋して掲載しましたので、まずはご参考に下記をご覧下さい。

(労働者の義務:抜粋)
□  労務を提供する義務 

□  業務命令に従う義務

□ 誠実に労働する義務  

□ 職務に専念する義務

■ 秩序を維持する義務  

□ 秘密を守る義務 等

これを見ると、院長の指示に従って真面目に働くという本人の義務だけではなく「秩序維持義務」という、組織を維持するために協力しなければならない義務もあることが分かります。つまり、自分自身、仕事ができるだけではなく、組織の秩序が保てなければ義務を果たしていることにはならず、結論としては「自分自身のスキル+組織への貢献」ができて、初めて「優秀なスタッフ」と呼べると定義できます。     

【定義を再認識したところで、Nさんの優秀さを検証!】
Nさんの個人的なスキルが高いのは先述の通りですが、新人が育たないという点に於いて、そこは明らかにNさんの「ウィークポイント」です。一生懸命やってくれてはいるのですが、結果的に新人が退職し秩序が保たれていないことから、Nさんは『個人プレーヤーとしては優れているが、教育者としてはスキル不足でフォローが必要』と結論づけました。つまり、Nさんが優秀なプレーヤーであり、その延長線上で教育でも結果を出してくれるであろうという考えを改め、教育は、全くの別スキルと切り分けて院長もサポートすることにしたのです。 

【院長がサポートに入って分かったこと】
 “名選手は必ずしも名コーチにはならない”とスポーツの世界ではよく言われますし、一般企業でも優秀な営業マンが管理職になった途端に振るわなくなるのはよくある話ですが、今回、院長もサポートに入って、これを強く感じたそうです。つまりNさんは、何でも自分ができてしまうことから、他人が「できない」理由が分からない、そのため、本人は丁寧に「伝えた」つもりでも「できる」前提で教えているので相手に伝わっていないことに気付いていない、要は、1回教えたら「できるはず」と考えていることが分かったとのことでした。
そして、この結果、教わる方は「できる」前提で教えられているので分からなくても質問しにくく、失敗すると「前に教えたよね?」と明らかに「がっかり」した態度を取られ、そして、これに耐えられなくなって退職するという流れになっていたのです。加えて、Nさんはマニュアルを作っていた訳ではなく、汎用性に欠ける「マイルール」で業務を行っていたため、結局、正解がNさんの中にしかないため誰も理解できなかったのです。

【誰がやっても医院が回るようにして初めて“優秀”なのです】
これを受け、院長はNさんと面談しNさんのスキルが高いこと、一生懸命やってくれていることは認めつつも、医院としては新人を育て組織秩序の維持に繋げてもらわなければ困るので、誰がやってもできる汎用性のあるマニュアルを作成してもらうこと、他人はNさんではないので同じようにできないこと、そして、これができてこそ本当に優秀なスタッフであり、結果が出たら待遇を上げるという約束をしました。 この面談でNさんは、「自分は仕事ができる=自分のやり方が正しい」と押し付けていたことを反省し、今では常に相手のことを考え奮闘しながら1人の新人さんを教育していますが、今までと違い、かなり良い感じで進んでいるそうです。

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