先日、クライアントであるAクリニックの事務長から『法人化を検討し色々調べているのですが、その中で「クリニックは医療法人だけでなく一般社団法人での法人化も可能」と聞きましたので、その可否やメリット・デメリット等について教えて頂けないでしょうか』というご相談を頂きました。
ご存知の通り、平成20年の公益法人制度改革により、非営利型の一般社団法人であればクリニックの開設は可能となっておりますので制度としては新しい話ではありませんが、クリニックの経営環境が年々厳しくなり、待ちの姿勢で外来の保険診療を続けるだけでは将来への見通しが立たず、保険外診療や他事業への参入・他業種との連携等のニーズが高まる中、運営上の制約が多い医療法人制度では限界があるため、この数年で一般社団法人が注目されています。
数年前に法律系の出版社から、非営利型一般社団法人で診療所を開設するためのハンドブックが発刊され、その影響もあるかも知れませんが、令和5年時点でのクリニック数(45都道府県)は、医科780件(対前年+396件)、歯科151件(対前年+42件)と少しずつ増加しており、今後のクリニックの方向性を検討する上では知っておいて損はない話ですので、今号にてご紹介させて頂きます。
【一般社団法人でのクリニック開設は100%可能か?】
一般社団法人の設立は法務局での登記のみで、医療法人設立時のような仮申請受付期間がなく、スピーディな設立が可能であり、これは医療法人と比べるとかなりメリットです。しかし、クリニックを経営する場合、保健所に届け出なければいけないのは同じであり、保健所が認めてくれなければ開設はできません。
周知の通り、クリニックの開設は都道府県知事の許可が必要であり、保健所はその代行権限を有していますので、まず、保健所を通らないといけません。 それでは、保健所は何を審査するのかということですが、まずは「開設者の適格性」です。つまり、保健所からすれば、医療法人は前例が豊富であり、医療法に基づき原則「認可」されるため、そこまでのチェックは必要ないのですが、一般社団法人の場合は、前例も少なく、各保健所の判断と責任に依るところも多く、「前例がない」と受理しないケースもあるようですし、適格性を証明するために、「理由書」や「非営利性の証明」だけでなく「誓約書」まで求めるケースもあり、届ければ通るという訳でもありません。
つまり、各保健所の裁量により、交渉の結果次第で100%とは言えないのです。
【そこまでして一般社団法人で開設するメリットはあるのか】
設立が早いのは先述の通りですが、それ以外でも、非医師でも理事になれることの他、医療法人には毎年課せられている都道府県への決算報告や令和5年8月から始まった「医療法人の経営情報等の報告」もなく、また、毎決算毎に必要な「資産総額変更登記」もありません(重任登記は必要です)。つまり、運用に手間が掛からないのです。
しかしながら、このような運用のため、開設後の行政の監督機能が及ばず、そのため、医療法に定められている「医療機関の開設者は営利を目的としてはいけない」、つまり、非営利性に疑義が生じていることもあり、「事業確認の厳格化」が検討されていますので、近い将来、医療法人と遜色のない運営になる可能性が高く、手間が掛からないということはなくなる=メリットとは言えなくなる可能性が高いのです。
また、それだけでなく、「非営利性・永続性」の審査に於いて、ガバナンスの独立性を確保するため、「理事とその理事の親族等(3親等以内)である理事の合計数が、理事の総数の3分の1以下」という基準が適用されることから、当然、乗っ取りのリスクが高くなるため、その防止策として「定款上の防護条項」を設けたり、理事会の運営ルールを強化したり、外部監視強化のために顧問弁護士と契約したりという内部統制に時間やコストが掛かることが考えられます。
【それでも、一般社団法人での開設を検討する場合とは】
法人運営における手間やコストに優位性が見当たらないのであれば、一般社団法人で開設するメリットは何なのかということになりますが、やはり、医療法人のように付帯事業に制限がない=医療以外の様々な事業を展開できる、例えば、保険外診療の導入の他(美容・再生・予防等)、介護事業・福祉事業・教育事業・研究事業等、将来に渡り、複合的に事業を展開したいとお考えの場合は、MS法人の有効性が以前ほど期待できない現在、一般社団法人による事業展開は検討に値するのではないかと考えられます。
【まずは、「事業計画」を考えた上で、事前にご相談下さい】
以上から、概ねの結論としては「医療以外の事業展開を考えるのであれば一般社団法人も検討、医療だけをやっていくのであれば医療法人で良いのでは」ということになると思われますが、もっと詳しく知りたい先生、また個別に考えていることがある先生は、是非、ご相談頂ければ幸いです。