財務・税務戦略

その取引、国税局に見られています!-所得税編―

財務VOL.193

国税局といえば「なんでそんなことまで?」という情報を持っていて、ある日突然“お尋ね”が届いてドキリとする!なんてことがありますが、そもそも、どうやってそれらの情報を収集しているのでしょうか?
そこで今回は、意外と知られていない国税局があなたの所得を把握するための方法についてまとめて解説していきます。

1.給与所得
事業主は、従業員の前年給与について、「給与支払報告書」をその年の翌年1月末までに各人の住む市町村へ提出しています。また、給与等が一定額以上の場合には、税務署に対しても「給与所得の源泉徴収票」の提出が必要になります。
こう書くと、ならば税務署は少額の副業分は把握してないのでは?と思われるかも知れませんが、いまや給与情報を含めほとんどの税務業務は電子申告の時代です。
当然ながら、個人の給与についても共通フォーマットで国・地方相互に情報提供が行われており、事実上全て把握されています。

2.退職所得
退職金についても「退職所得の源泉徴収票」税務署と市町村に提出する義務があります(金額に関係なく)
ただし、これまでは「法人の役員」のみが提出対象だったのですが、令和7年度税制改正により提出範囲が広がり、令和8年1月1日以降は退職金の支給を受けた者はすべて提出対象となりました(国内に住んでいない人は除きますが)。
複数箇所から退職金を受けた際に重複して退職所得控除の適用を受ける誤り(本来は主たる一箇所のみ)が散見されたのが原因です。

3.講演料等
原稿料や講演料、印税等は、1年間の支払合計が5万円を超える(1回ではありません)と、支払った企業ら「報酬、料金、契約金および賞金の支払調書」が提出されます。

6.不動産売買
不動産を売却した場合、購入した側が「不動産等の譲受けの対価の支払調書」を提出します(100万円超)。
買われた方が個人の場合は支払調書の提出義務はありませんが、国税局は法務局や地方自治体とも連携しているので、不動産登記の際不動産取得税・固定資産税の課税段階などいずれかの時点で確実に把握されます。

4.株式等の譲渡及び配当等
株式等の譲渡や配当等については、「特定口座」「一般口座」で取扱いが異なります。
特定口座については、年間の取引損益や配当などを記載した「特定口座年間取引報告書」税務署へ提出されます。また、特定口座はマイナンバー提出が義務化され紐付けられています。

一般口座についても、金額に関わらず全ての譲渡・配当について、「株式等の譲渡対価等の支払調書」「配当、剰余金の分配及び基金利息の支払調書」税務署へ提出されています。
ただし一般口座については、国税局は売主側の購入価額までは把握していないため、たまに“お尋ね”が来ることがあります。

5.暗号資産
暗号資産に係る損益については、現状、支払調書の提出義務などは設けられていません。
しかし、取引所は税務署の要請に対し取引履歴などの情報を報告する義務があり、また、海外取引所についても租税条約に基づく情報交換が行われているためCARF(暗号資産等報告枠組み)という自動情報交換のための制度が来年1月に導入される予定です。

7.金地金
金地金の売却価額が1回200万円以上の場合、取引業者は「金地金等の譲渡の対価の支払調書」を提出します。これには売却者の氏名、住所、売却価額が記載されています。
ちなみに現在、200万円を超える売却に際してはマイナンバーの提示が求められるようになっており、当然これも記載されています。

8.海外との送受金
金融機関を通じ1回あたり100万円を超える海外との送受金を行った場合、依頼者の氏名、住所、送受金額、送金の原因等を記載した「国外送金等調書」が提出されます。当然ですが、自身の海外口座への送金も対象です。
また、CRS(共通報告基準)という国際的な情報共有制度により、100以上の国と海外口座の情報が自動交換されています。

9.保険
保険会社から満期保険金死亡保険金解約返戻金給付金等一時金、又は年金を受け取った場合、一時金は100万円超(1回あたり)年金は20万円超(年間合計)で、保険会社から「生命保険契約等の一時金の支払調書」が提出されます。これには誰が、どんな内容で、年間いくら受け取ったかが記載されています。
また、保険契約者を変更した場合にも、国税局に通知されます。

10.ビッグデータとAI
国税庁には、国税総合管理システム(通称「KSK」)という全国の税務署や地方国税局と本庁を結ぶ専用ネットワークがあり、ここには平成7年の導入から現在まで20年以上の税金に関する情報が蓄積され税務調査の対象先選定などに活用されています。
また、この情報には個人口座不動産保険証券、海外資産なども含まれており、全国の税務署などから閲覧が可能です。

この強力なビッグデータを活用することで、実地調査件数は減らしつつも追徴税額は過去最高を記録するというような近年の“狙い撃ち”に近い税務調査が行われています。
「KSK」には異常値を検出したり、申告内容から対象先をスコアリングする機能などもあるとされており、そこに今後は「AIによる分析」も加わることで税務調査は更に高効率高精度なものになることでしょう。

来年9月には更に高性能化した「KSK2」の導入が予定されており、より一層の取締強化が予想されます。

以上のように、国税局は皆さんが思っている以上にこちらの情報を知り尽くしています。
税務申告を失念して後から追徴課税による負担を強いられることのないよう、くれぐれもご注意下さい。

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