労務・人材活性化

「はい」と言いながら陰で文句を言うスタッフへの対処

経営VOL.199

先日、クライアントのR院長から、「私の指示に対して、“はい!分かりました”と元気良く返事し、不満気な態度を一切見せないSというスタッフがおり、この様子に安心して色々お願いしていたのですが、別のスタッフから“Sさんの医院批判や院長への悪口がひどく、周囲も困っている”という相談を受けました。
また、それだけではなく、Sは依頼された仕事を他の者にさせて、自分はやらず報告のみしているので、現場の雰囲気はかなり悪いとのことでした。この状態、何とかならないものでしょうか…」というご相談がありました。 

その後、R院長からの依頼を受けスタッフの皆さんからお話をお聞きしたところ、結局、Sさんは、かつて学級に1人はいたであろう典型的な「先生、大人の前では良い子、陰で悪さする子」で、それは皆さん、そういう人だから仕方ないと諦めていたのですが、それよりも、「院長はSを信じ切っているので、自分たちは信用してもらえていない(仕事をしているのはSだけと思っている)」という状況の方が辛いというお話でした。
これにR院長はショックを受けると同時に、確かにSだけ多くの仕事をこなし他のスタッフはやっていないと思っていたこと、事あるごとにSを皆の前で褒めて微妙な空気になっていたこと等、思い当たる節が多々ありましたので、改めて反省するとともに、早速、弊社と改善施策を進めることとなりました。 購読されている先生方の中でも、このような、表と裏の顔が違うスタッフに遭遇し、苦労されたことがあるかも知れません。また、遭遇したことがない先生も、意外と多いタイプのスタッフですので、この機会に理解を深めて頂ければ幸いです。

【まず、Sのようなタイプのスタッフについて理解しましょう!】
有名な言葉で、表で従う振りをしながら裏で従わないことを『面従腹背』といいますが、同じ、表で従う振りをしていても、直接的な対立を避けつつ、間接的に不満や抵抗を示す行動をとるケースがあります。これを心理学・精神医学では「受動動攻撃型(パッシブアグレッシブ)」といい、今回ご相談のあったSさんは、正にこの典型的なスタッフと言えます。 つまり、表向きは院長の指示に従っている振りをして、裏では悪口を言う、依頼された仕事を自分ではやらない、しかし、やらずに放置すると反発が明るみになるので他人にやらせ、あくまで従った振りのまま報告に行くという、間接的な抵抗で身分の安定を図っている、典型的な迷惑スタッフで、このタイプが跋扈する職場に明るい未来は訪れません。

【次に、S以外のスタッフはどのような状態だったのか?】
組織としては、こちらの方が重症なのですが、皆さんのお話を聞く限り、S以外の皆さんは『学習性無気力』に陥っているようでした。これは繰り返し努力しても結果が変わらない経験を重ねることで主体的に行動しようとする意欲が低下した状態を指しますが、この原因は、過去、幾度か院長に実状を伝えようとしたが聞く耳を持ってもらえず、その後、ますますSへの評価が偏重し、『院長に何を言っても仕方がない』『院長と信頼関係を築けない』と皆さんが感じていたとのことで、さすがに、これは組織としては危機的な状況でした。 

【このような状況を打開するために行った改善施策とは?】
まず、手を付けたのはS以外のスタッフの皆さんで、これまでの経緯を踏まえ、改めて信頼関係を構築するために、今後は1つ1つのタスクに対して実施者の確認を行い、公平な評価を行うことを約束しました。学習性無気力は元々やる気がない訳ではなく、過去の経験に基づく心理的防衛反応ですので、それを解消したのです。
但し、約束したことを守らないと、次は「ない」ことをR院長には再認識して頂きました。 次に、問題のSですが、これまでのことを問い詰めるだけだと退職してしまうかも知れず、退職すると人手不足になりますし、最近、Sほどの能力を持つ人材を確保するのも容易ではないことから何とか活かす方向を考え、そして、受動攻撃性を持つスタッフは、院長(上司)に直接意見を言うことに不安を持っているという特性から、ここはR院長ではなく、弊社コンサルタントによる「第三者面談」を実施しました。具体的には経営改善のためSさんに色々教えて欲しいという姿勢で、当院の改善点を聞く体裁でSの不満・本音を引き出し、そして全てを吐き出したタイミングで、R院長は聞く耳を持つ上司であることを伝え、自身の意見を冷静にかつ具体的に伝える手法として「SBIフレーム」をお勧めました。

「SBIフレーム」については紙面の関係で次号お伝えしますが、今回の施策によりSは自分の意見を冷静に言うようになり、また、他のスタッフ皆さんも言われたことだけでなく積極的に動いてくれるようになり、Sとの関係も良好となりました。 組織は生き物であり、日々進化や退化を繰り返しますが、生き物である故に、病気を放置すれば治療できなくなります。しかし、まだ、症状が軽い間に原因を見つけ、丁寧に対応することで健康を保つことができますので、もし、組織の健康が少しでも気になる先生方は、是非、ご相談下さい。

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