財務・税務戦略

申請期限直前!「インボイス制度」 総まとめ①

財務VOL.162

来年10月の「インボイス制度」開始まで1年を切りましたが、開始と同時にインボイス制度の適用を受けるための登録の申請期限が来年3月末に迫っていることはご存知でしょうか?
当レポートでは過去にも4号(VOL.149~152)に渡り、インボイス制度について解説してきましたが、今回は申請期限直前号として総まとめをしていきたいと思います。

1.インボイス制度とは
そもそも「インボイス制度」とは、令和元年の消費税増税(10%)に併せて発表された制度で、食料品と新聞について軽減税率(8%)が適応されたことで2つの税率が混在することとなり、それに対応した「適用税率や税額の記載を義務付けた請求書」=「インボイス」を発行し、正確な税額計算をできるようにする名目で導入された制度です。
しかし、この制度導入の真の意図は「免税事業者の益税の解消」にこそあります。

現在、消費税のかかる売上が年間1千万円以下の事業者には、消費税の納税義務がありません(以下、「免税事業者」)。そのため売上に含まれる消費税を国に納めず事業者の利益とすることができ、これを「益税」といいます。
当然、国としてはこの状況を解消したいので「インボイス制度」の導入に際し、一計を案じました。それが、

① 登録事業者(インボイス発行のため税務署に登録した事業者)以外からの仕入について消費税を控除できないようにする

② 登録事業者になるには消費税の課税事業者(納税義務者)にならねばならない

という2要件です。

消費税は売上に係る消費税から仕入に係る消費税引いた差額を納付する仕組みですので、仕入に係る消費税が控除できない=納税額が増えることになります。
そうなると必然的に、特別な理由でもない限り、同様の業種間では登録事業者の方が選ばれる可能性が高くなると考えられます。結果、多くの「免税事業者」競争力維持のため、税負担覚悟で登録事業者=納税義務者となる選択を迫られているわけです。
なお、登録事業者となった以後は、売上が1千万円以下でも強制的に課税事業者となります。

2.医療機関への影響
では、次に医療機関への影響を見ていきましょう。
ご存知の通り、医療機関の収入の多くを占める保険診療収入は消費税のかからない「非課税売上」です。そのため、医療機関は他業種に比べて「免税事業者」の割合が多い傾向にあります。
ならば、影響を強く受けるのかというと、そうではありません

まず初めに抑えておきたいのは“インボイス制度の影響を受けるのは、取引相手が「事業者」である場合に限られる”ということです。
事業者でない「個人」には消費税の申告・納税義務がありませんから、発行される領収書等がインボイスか否かなど関係ありません。そして、医療機関の取引相手の殆どは「個人の患者」です。

つまり、医療機関は業種の特性として、インボイス制度の影響を受けにくいということが言えます。

次に、インボイスが必要になるのは消費税が課される売上ですが、医療機関の売上でいえば次のようなものが該当します。

〈歯科〉
インプラント・矯正等の自由診療収入や歯ブラシ等の販売

〈皮膚科・形成外科〉
美容外科関連の各種施術やサプリメント等の販売

〈内科や小児科、耳鼻科等〉
健康診断、予防接種、産業医報酬

〈整形外科等〉
保険会社等への交通事故収入に伴う文書料、データ提供料

〈その他〉
製薬会社等への治験収入

 上記のうち、事業者に対する取引がある場合、インボイスの交付を求められることが想定され、交付できない場合には「取引先としての選別要因」になってしまう可能性も考えられます。
以下で、診療科目別に、「免税事業者」である場合と「課税事業者」である場合に分けて登録申請の是非を解説していきます。

自院が「免税事業者」の場合
一般的に「事業者」相手の取引が殆どない「歯科」「皮膚科・形成外科」及び、もともと自由診療等の少ない「眼科」「耳鼻科」まず申請不要と言えるでしょう。

「内科」については事業者相手の取引(企業相手の健診、予防接種、産業医報酬等)の有無と有る場合にはその年間売上の見込額等に基づいて総合的に判断してください。

診療科目に関わらず、「治験収入が多い医療機関」も同様です。

 判断のポイントとしては下記の通りです。

「課税事業者」を選択した場合、新たに発生する消費税負担額(納付額)はどれ程になるのか?

・「課税事業者」を選択しない場合、取引先において負担増となる消費税相当額の値引きを要請された場合、その負担額はどれ程になるか?

・消費税相当額の値引き要請に応じない場合、どれ程の取引消が想定されるか?

なお、登録事業者となった場合、登録日から2年を経過する日の属する期の末日まで登録を取消す(免税事業者に戻る)ことはできませんのでくれぐれもご注意ください

自院が既に「課税事業者」の場合
まず押さえておきたいポイントは、既に消費税の「課税事業者」である医療機関が登録事業者となった場合、新たに追加の消費税負担が発生することはないという点、また、インボイスの交付は取引事業者に“求められた場合のみ”(詳細は次号)のため、取引相手の殆どが個人患者の場合には事務負担の増加も僅少という点です。
以上のことから、事業者取引がない医療機関は必ずしも登録する必要はないですが、事業者取引が少なからず有るという場合には申請しておくほうが良いでしょう。

いずれにしましても、顧問税理士とよくご相談の上、最終的な判断を行うことが肝要です。

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