労務・人材活性化

新型コロナ禍における「休業手当」の取り扱い

経営VOL.138

先日、クライアントのM医院さんで、スタッフのお一人が「発熱」と「倦怠感」を理由に欠勤を申し出て来られました。数日、症状が続いていることから新型コロナウイルスの感染も疑わざるを得ないため保健所に相談した結果、「感染疑いのある患者さんと接している医療従事者である」という理由で、早々にPCR検査を受けさせてもらえました。幸い、結果は「陰性」で、症状が治まるまでは休んでもらうことにしましたが…、その際、院長先生より『このような場合は普通に欠勤扱いで良いのでしょうか?また、休業手当は必要になるのでしょうか?』という質問がありました。 今回のM医院の院長先生に限らず、「この場合は、休業手当は必要なのか、欠勤扱いで良いのか」、「有給休暇を付与した方が良いのか」等、新型コロナウイルスに関する「労務管理」について困っている先生方が多かったため、情報も多く出ておりますが、改めて今号にて整理させて頂きます。 

【そもそも「医院都合」の休業とは?】
スタッフを「医院都合」で休ませる場合は、休業手当として平均賃金の60%以上を支払わなくてはなりません(労働基準法第26条)。医院都合の休業=使用者の責に帰すべき事由』での休業あり、不可抗力による休業の場合は、休業手当の支払義務はありません

尚、不可抗力とは下記の2つの要件を満たすものです。

  • その原因が事業の外部より発生した事故であること
  • 事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしても、尚、避けることのできない事故であること

【ケース1: 使用者が「自宅待機」を命じた場合】
発熱や倦怠感等、合理的な感染疑いがあり、「職務に就くことは不可能」と判断し、スタッフに自宅待機を命じた場合、休業手当は不要と考えられます。但し、職務に就くことは可能であるにも関わらず、「念のため様子を見る」等の理由で使用者の自主判断で休業させた場合は、休業手当を支払う必要があるとされています。 労働基準法第26条で定められている『休業』とは、「労働者が労働契約に従って労働の用意をし、かつ、労働の意思を有しているにも関わらず、その提供を拒否され又は不可能になったこと」、つまり、労働者が労務の提供可能な状態であることが前提で、初めて『休業』となるのです。

今回のM医院のケースでは、スタッフに感染が疑われる症状(発熱・倦怠感)があり、陰性ではあったものの、通常の労働は困難な状況であったため、社会通念上、「労働提供が可能な状態」とは言えません。よって、今回の自宅待機は、『使用者の責に帰すべき事由』には該当せず、休業手当は不要と考えられます。しかし、「あくまで医院側から要請した自宅待機であるという考え」と「特殊な感染症の流行下において感染リスクの拡大防止措置は必要でこれは不可抗力であるという考え」もあり、明確な線引きが難しいのが実情です。

【ケース2:自院のスタッフが感染してしまった場合】
次に、スタッフが新型コロナウイルスに感染してしまったケースですが、この場合、都道府県知事による「入院勧告」を受ける等「就業制限」の対象となるため、一定期間休業させることになりますが、この場合、ノーワーク・ノーペイの原則に基づき、その間の「給与」や「休業手当」は必要ありません。但し、加入している健康保険によっては、療養のために働けなくなった日から3日を経過した日から(つまり休業が4日以上)申請によって、傷病手当金が支給されます。尚、傷病手当が出ない健康保険もありますので、加入されている健康保険組合などに確認が必要です。また、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象になります(二者択一)。

【ケース3: スタッフが「濃厚接触者」になった場合】
スタッフが濃厚接触者になってしまった場合、感染拡大のリスクを防ぐため、自宅待機を命じることになると思いますが、この場合も「給与」や「休業手当」は不要と考えられます。一般的には、具体的な症状がなく、就労可能な状態であれば、先述の通り、休業手当が必要と解されますが、今回は、健康状態を一定期間観察することになった理由は外部に起因し、医院には避けようがないことですので、不可抗力による休業考えられるからです。但し、在宅や別室で隔離してできるような作業があるにも関わらず自宅待機を命じる場合は休業手当が必要で、使用者は休業を最大限回避する努力が必要ということです。 今号では、新型コロナ禍における「休業手当」の取り扱いについてお話をしました。解釈が難しい部分はありますし、現場の士気を下げないよう、欠勤扱いではなく、有給休暇や特別休暇で対応するなど、柔軟な対応をお勧め致します

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