財務・税務戦略

副業300万円問題/令和4年度「基準地価」

財務VOL.161

今号では、8月1日に国税庁が公表し話題となった「副業300万円問題」の概要と、先月20日に国土交通省から発表された「令和4年度基準地価」について解説していきます。

1.年収300万円以下の副業が雑所得に?
8月1日、国税庁は「所得税の基本通達」についての改正案を公表しました。通達とは国税庁が定めた税金を計算する上でのルールで、法律ではないものの、基本的にはこれに従って税理士などは税務を行うことになります。
今回の改正案は、今まで曖昧だった「事業所得」と「雑所得」の線引きを明確にするためのもので、「実際には事業と呼べる規模ではない副業を事業所得として申告し、青色申告の特典(※後述)などを使って、過度の節税を行うスキーム」の排除などが背景にあるようです。
しかし、その為の改正内容が少々物議を醸しており、具体的には、「その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証のない限り、雑所得に該当する」というもので、これはつまり、年収300万円以下の副業に関しては、原則「雑所得」とするということです。
では、次に具体的な影響について見ていきます。

(1)「雑所得」になることで生じるデメリット
副業収入を「雑所得」として申告することとなった場合、「事業所得」、特に「青色申告」により申告していた場合に受けられた次のような特典が受けられなくなります。
① 青色申告特別控除
青色申告、及び複式簿記による帳簿書類の作成を要件として受けられた最大65万円の控除が使えなくなります。
② 損益通算
収入から経費を引いた差額が赤字となった場合、その赤字部分を給与などの他の所得と損益通算(相殺)することができなくなります(青色申告でなくとも事業所得であれば適用可能)。
③ 繰越損失
多額の損失が発生し、②の損益通算を行ってもなお赤字が残っている場合、青色申告を要件として、翌年以後3年間その損失を繰り越すことができましたが、これも使えなくなります。

ただ、そもそも論ですが、給与所得者が副業により収入を得ている場合、そのほとんどは「雑所得」として申告することが多いのです。それは、「事業所得」と判断されるには、「その活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうか」が問われるからで、
具体的には、
・営利目的で対価を得て行っているか
・反復継続して行っているか
・必要な業務やリスク負担を自身で行っているか
・事業として客観的に成立しているか

などを考慮し判断がされます。

よって、単発の仕事や先物取引の収益等は事業に該当しません。
また、副業収入が「給与所得」や「不動産所得」などに該当する場合にも、この改正の影響は受けません。
ですので、先生方でこの改正案の影響を受ける方は少ないように思われます。

また、基本的には300万円以下の副業収入は「雑所得」とされる可能性が高いですが、条文にもある通り、事業実態があると「反証」ができれば、従来通り「事業所得」で申告することも認められるようです。
あくまで副業があったことにして私費などで赤字を積み増し、過度な節税を行うような納税者への対抗措置ということでしょう。「反証」が具体的に何を指すのかが今後注目されるところです。

(2)適用開始時期
本年(令和4年分)の所得税申告から適用される予定です。
現状はあくまで案が示されたのみで、8月中にこの改正案に対するパブリックコメント(一般からの意見公募)を行っており、それを受けて変更がかかる可能性もありますので、大きな変更があった場合には追ってお知らせいたします。とはいえ公表の段階で大筋は既定路線という見方が強いようです。

2.令和4年度基準地価
国土交通省は9月20、令和4年度「基準地価」を発表しました。
基準地価は各都道府県が毎年7月1日時点の基準値の地価を調査・公表しているものです。

                                (単位:%)  

全用途 住宅地 商業地
R3 R4 R3 R4 R3 R4
全国 ▲0.4 0.3 ▲0.5 0.1 ▲0.5  0.5
三大都市圏 0.1 1.4 0.0 1.0 0.1  1.9
東京圏 0.2 1.5 0.1 1.2  0.1  2.0
大阪圏  0.3  0.7 ▲0.3  0.4 ▲0.6 1.5
名古屋圏 0.5  1.8 0.3  1.6 1.0 2.3
地方圏 ▲0.6 ▲0.2 ▲0.7 ▲0.2 ▲0.7 ▲0.1
地方四市  4.4 6.7  4.2 6.6 4.6 6.9
その他 ▲0.8 ▲0.4 ▲0.8 ▲0.5 ▲1.0 ▲0.5

 

【全国平均】
全用途平均と商業地はそれぞれ3年ぶり、住宅地は実に31年ぶりに上昇に転じました。
これについて国土交通省は「経済活動の正常化が進む中で、新型コロナウイルス感染症の影響等により弱含んでいた住宅・店舗等の需要は回復傾向にある」ためと分析しています。

【三大都市圏】
東京圏、名古屋圏では住宅地・商業地ともに上昇が継続、大阪圏では住宅地が3年ぶり、商業地も2年ぶりに下落から上昇に転じました。
インバウンド消失の痛手を受けた銀座や大阪ミナミも、外国人観光客の入国制限の緩和などを背景に下げ幅は減少しており、コロナ禍から復調の兆しを見せています。

【地方圏】
地方四市(札幌市、仙台市、広島市及び福岡市)では、再開発などを背景に、全用途平均・住宅地・商業地のいずれも上昇が継続しました。
しかし、東北や四国などその他の地方では、下落が継続しており、需要のある地域との二極化が進んでいます。

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