労務・人材活性化

健全経営のために『パワハラ』を正しく理解 ②

経営VOL.160

前号ではパワハラ防止法の基本や定義についてお話ししましたが、いかがでしたでしょうか。注意・指導の全てがパワハラに該当する訳ではなく、法律の「主旨」があり、それに沿った「定義」があるということをご理解頂けましたでしょうか。その後、やはり複数人の先生方から『それでは、具体的にどのような言動が該当するのか』というお問い合わせがありましたが、今号にて、前号でもご案内していた通り、実例を交えて、どのような言動がパワハラに該当するのか、どのようなことに気をつければ良いのか、頂いたご相談を例にとって解説させて頂ければと存じます。

 頂いたご相談は、前号をご覧になったA先生からで、『同じミスを繰り返すスタッフに幾度か注意し、それでも改まらないので思わず“しっかりしろ!”厳しく叱責したら、そのスタッフは体調不良を訴えて出勤しなくなりました。もし、パワハラと訴えられたら該当するのでしょうか…』という内容でした。

一昔前であれば(現在でもそうかも知れませんが)上司が部下を指導するシーンとしては、日常的に見受けられた言葉ですし、当事者でなければ分からない諸事情もあるかも知れないものの、これで出勤しないスタッフに問題があるのではないかと思ってしまいますが…、たとえ、そうであったとしても今年4月からは、きちんとした検証が必要なのです。

【改めて、パワハラの定義を確認してみましょう!】
前号でもお伝えしたパワハラの定義とは下記の通りです。

パワハラとは、職場において行われる 

1.優越的な関係を背景とした言動であって、

2.業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、

3.労働者の就業環境が害されるもの

であり、3つの要素を全て満たすもの

これに照らし合わせると、A先生とスタッフの関係は、上司と部下、或いは雇用側と被雇用側であるため、1.には該当すると思われますが、「しっかりしろ!」という言葉が、2,業務上必要かつ相当な範囲を超えたものかどうか、そして、それによって、3.労働者の就業環境が害されるのかどうかがパワハラに該当するかどうかのポイントなりますので、これらの言葉の定義を次項に改めて掲載しますのでご確認下さい。

1.優越的な関係
⇒ 業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける者が行為者に対して抵抗や拒絶ができない蓋然性が高い関係(上司と部下、同僚や部下でも当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行が困難な関係)2.業務上必要かつ相当な範囲
⇒ 社会通念に照らし、当該言動が明らかに業務上、必要性がない、またその様態が相当でないもの(例えば、些細なミスを執拗にあげつらう、大声で怒鳴る、何枚も反省文を書かせる、土下座を強要する等)

3.就業環境が害される
⇒ 当該言動により、労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障

【パワハラに該当するとされる言動の6類型】
さらに、厚生労働省では、これらの定義に該当する「具体的な言動」についても定めていますのでご紹介します(↓)。

  • 身体的な攻撃:暴行・傷害行為等
  • 精神的な攻撃:脅迫や名誉毀損、侮辱、暴言等
  • 人間関係からの切り離し:隔離、仲間外れや無視等
  • 過大要求:不要、不可能な仕事の強制、妨害等
  • 過小要求:程度の低い仕事の強制、仕事させない等
  • 個の侵害:私的な領域への過度の立ち入り

【結局、A先生の言動はパワハラなのか?】
パワハラと指導の違いとして、『指導』は相手の成長を促し、業務改善のために必要性な指示等を行うものであり、『パワハラ』は上記6類型のような言動を行うものですので、A先生の言動は明らかに「指導」の範疇です。また、行為者の意図に関わらず相手が不快に感じるとハラスメントであると言われることがありますが、厚生労働省では「社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」を判断基準とするのが適当としていますので、『自分がパワハラと感じたのだからパワハラだ!』という主張が無条件に通る訳ではないということです。結論として、業務上、必要な指導はきっちりと行って頂き、もし何か言って来られても各定義に照らし、理不尽な言い分には毅然と対応して頂ければ良いということです。

PDFファイル