財務・税務戦略

令和3年度税制改正大綱 -資産税関連-

財務VOL.142

前号では『令和3年度税制改正大綱』の概要について解説しましたが、今号では前回ご紹介できなかった「資産税関連」の改正にスポットを当てて解説していきます。

1.教育資金の一括贈与非課税措置の見直し
30歳未満の受贈者父母や祖父母などから信託銀行などの金融機関を通して教育資金の一括贈与を受けた際に、最大1,500万円まで非課税とする制度です。

もともと扶養義務者間での教育資金贈与はそもそも非課税ですので、祖父母等から教育資金の贈与を都度受ける分には贈与税の申告すら不要です。それでもこの規定が利用されてきたのは、制度を利用することによるそれなりのメリットがあったからなのですが、改正により少しずつそのメリットが制限されてきています。

以下そのメリットと改正の経緯をご確認下さい。

【制度導入時のメリット】
①「当面必要な教育資金」だけでなく「将来に渡って必要な教育資金まで含めて贈与できる(※贈与者が高齢の場合に有効)

②子や孫が30歳になる前に贈与者が死亡しても、「当初贈与した金額」あるいは「教育資金で利用しきれなかった残額」について相続税が課せられることは一切無い(※通常、相続開始前3年以内の贈与は相続財産に加算されるが、同規定も対象外)
※ただし、受贈者が30歳到達時点で、使い切れていない残額については贈与税が課税される

【平成31年度改正】
贈与後3年以内に贈与者が死亡した場合、死亡時点で使い切っていない残額がある場合には、相続税の課税対象となる
※ただし、死亡時に子や孫が23歳未満学校等に在学中場合については対象外

②受贈者が相続人でない孫やひ孫であってもの相続税の2割加算の適用はなし

【今回の改正】
①相続前3年以内の贈与に当たるかどうかに関わらず、贈与者死亡時点で使い切っていない残額はすべて相続税の課税対象
※ただし、死亡時に子や孫が23歳未満学校等に在学中場合に対象外となるルールは継続

②受贈者が相続人でない孫やひ孫の場合は相続税の2割加算が適用される
度重なる改正で一見、メリットが順次縮減されているように思えますが、贈与者が死亡した際に、受贈者が学校等に在学中、又は23歳未満の状況であれば、制度導入時と同様のメリットは享受可能です。お子(お孫)さんが小さいうちから教育資金一括贈与を行い、23歳までに使い切ることを目標とすれば未だ未だ利用価値のある制度です。この制度は期限令和5年3月末まで2年間延長令和3年4月1日以後の贈与について適用となります。

2.結婚・子育て資金の一括贈与非課税措置の見直し
20歳以上50歳未満の受贈者父母や祖父母などから信託銀行などの金融機関を通して結婚・子育てに充てるための資金の一括贈与を受けた際に、最大1,000万円まで非課税とする制度です。

結婚・子育て資金も教育資金と同様に、都度贈与していれば贈与税は非課税です。しかも本制度は教育資金の非課税制度とは異なり、そもそも贈与者死亡時の残額は全て相続財産として足し戻されるため、節税効果において都度贈与との差異がありませんでした。

改正の内容は下記の通りです。

①同制度の唯一のメリットが「孫・ひ孫の2割加算対象外」だった訳ですが、これが改正により原則通り2割加算の対象となりました

②受贈者の適用年齢下限を20歳→18歳に引き下げられました

メリットが完全に消滅したため、手続きの面倒さを考えれば利用価値はほぼなくなったと言えるでしょう。利用件数も極めて少ないため次回の適用期限到来時に廃止も含め検討されるとのことです。
今回の改正は、上記①については令和3年4月1日以後②については令和4年4月1日以後の贈与について適用され、適用期間が令和5年3月末まで2年間延長されます。

3.住宅取得等資金の贈与
令和3年4月1日以後の非課税枠が据え置きとなりました。

元々は消費増税の影響緩和策であるため、段階的な非課税限度額の引き下げが行われてきましたが、新型コロナの影響を鑑み、4月以降についても引下げを行わず、令和3年1月~3月の期間の非課税限度額が維持された形です。

住宅の種類 消費税 令和3年4月~12月
改正前 改正後
省エネ、耐震、

又はバリアフリー住宅

10% 1,200万円 1,500万円
以外* 800万円 1,000万円
上記以外の住宅 10% 700万円 1,000万円
以外* 300万円 500万円

*中古住宅の個人間売買等などで消費税がかからない場合

また、前号でご紹介しました住宅ローン控除の条件緩和に合わせ、住宅取得等資金の贈与に関しても、受贈者の年間所得が1,000万円以下である場合には、対象となる家屋の床面積の下限が50㎡以上から40㎡以上に引き下げられました。

なお、適用期限の延長は行われませんでしたので、現行の制度は令和3年12月をもって終了となります。再延長の可否は未定です。

 4.暦年贈与廃止の動き
暦年贈与については今後の検討事項として留保されています。

・現在の構造では富裕層の分割贈与による負担回避を防止できない

・諸外国では一定期間の贈与や相続を累積して課税することで資産移転のタイミングにかかわらず税負担が一定になるようにしている

・今後こうした諸外国の制度を参考に本格的な検討をすすめる

具体例までは示されていませんが、以下のような節税抑止策が検討されるかも知れません。

(1)暦年贈与を廃止し、全て精算課税制度全ての贈与を記録相続発生時に相続税と精算する制度)に統一する

(2)相続財産に贈与分を加算する期間を現行の3年から延長する(アメリカは全期間、イギリスは7年、フランスは15年分を加算)

非常に大きな影響を及ぼす可能性がありますの注視が必要です。

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