労務・人材活性化

『2・6・2の法則』の誤った解釈に注意!

経営VOL.162

会員であるF歯科さんでは、なかなか採用ができずに困っており、近隣相場よりも高い給与で募集を出しているにも関わらず反応がありません。そこで、他院との差別化として、頑張れば頑張るほど給与・賞与が上がる『評価制度』を導入しようと考え、医院が定めた評価項目をクリアする毎に給与が上がる制度を苦労して作成し、スタッフに発表しました。

院長としては、これを導入することにより、①何を頑張れば良いか明確となり、それに伴って給与・賞与も上がるのでモチベーションが上がる②採用がしやすくなる③新たなスタッフも先輩の姿を見て自ずと頑張るようになる④何をやるか明確なので、自分が指示をしなくても動く組織になる⑤ES(従業員満足度)が上がることによりCS(顧客満足度)も上がる⑥増患に繋がる⑦地域で選ばれる医院となる⑧売上が上がる、という流れを描いており、「これを発表すれば、みんな喜ぶだろう」と、嬉々として話をされました。
ところが…、確かに、元々「頑張っている人とそうでない人に差を付けて欲しい」と希望していたスタッフは喜んでいましたが、大半はピンと来ない様子で、一部は明らかに難色を示しており、院長からすれば、喜んでもらえると思っていたため、この反応には大変なショックを受けてしまいました。

そこで院長は、組織における「2・6・2の法則」を思い出し、『確かに当院でも数名が全体を引っ張り、逆に数名が足を引っ張っている状態で、当院の成長の妨げになっている。であれば、今回、この評価制度に乗り気ではないスタッフには辞めてもらえば医院のパフォーマンスは上がるのでは?』と考え、どのようにするべきか弊社にご相談に来られたのです。
確かに、苦労して作成されたので気持ちは分かりますが、このような場合、本当に、乗り気でない人に辞めてもらい、乗り気の人だけで運営して上手くいくのでしょうか。法則の解釈も踏まえ、F歯科さんの実例から検証してみたいと思います。

【改めて、『2・6・2の法則』についておさらいしましょう!】
ご存知の通り、2・6・2の法則とは、組織や集団において、貢献度の高い人が全体の2割・中程度の人が6割・低い人が2割という比率に分かれるという法則で、ここまでは皆さんよくご理解されています。しかし、この法則で重要なのは『下位の2割を排除しても、残った中位の人の中から新たに下位の2割が出てくるため、いずれ2・6・2の比率に落ち着く』、つまり、下位2割の存在は消しても消しても生まれるため、これを前提として認識しておく必要があるということです。

【F歯科で行ったことⅠ: 『個別ヒアリング』】
せっかく院長が肝入で作成した「評価制度」ですが、2・6・2の法則に照らし合わせて「乗り気ではない=やる気がない」と断じる前に、まず個々の意見、特に難色を示したスタッフさんにお話を聞くと、以下のようなご意見でした(↓)。

  • 採用難であるのは知っているし、採用はして欲しい。
  • そのための施策として今回の評価制度は良いと思う。
  • 但し、自分自身は今まで通りの働き方をしたい。

⇒ 評価に振り回されず日々業務をきちんとしたい。
(制度導入の新たな負荷で日常業務が疎かになる)

  • また、給与・賞与に不満もないので評価制度はモチベーションにならない(十分いただいています)。
  • よって、個人的には制度に乗りたくない。

つまり、このスタッフさんは新制度導入に理解は示すものの、これによる業務負荷の増加に不安を感じたため、自分自身は、これまでと変わらない“きっちりとした”働き方を望んでいただけで、決してやる気がない訳ではなかったのです。そして、全員のヒアリングを行った結果、新制度の導入により、自分の成長に繋がると感じている人、単に給与が上がることに喜んでいる人、評価項目以外の業務は誰もしなくなるのではと心配していた人等々、様々な反応がありました。これを、2・6・2の法則に照らして「やる気」で測ると、制度に乗り気ではないスタッフさんは「やる気がない」と判断してしまいますが、「制度そのものの反応」で測ると、「希望する働き方の区分が明確になった」と捉えることができます。

【F歯科で行ったことⅡ: 給与体系を希望により「分割」】
この結果、希望する働き方は人それぞれで、やる気の問題ではないことが分かったF歯科さんでは、今回作成した「頑張れば頑張るほど給与・賞与が上がる制度」は希望者のみ、従来の働き方をしたい人はそのままとし、結果、多様な働き方を望む方々の事情に配慮した制度となりました。その結果、給与体系が選べることから応募者が増え、先日、新たなスタッフさんを採用することができました。 いかがでしょうか。2・6・2の法則とは、単に、出来・不出来や、やる気の有無の比率ではなく、その指標の区分に過ぎないこと、そして、指標に沿わない少数にネガティブなイメージで接するのではなく、それに見合った対応することが必要であることを今号にてご理解頂ければ幸甚です。

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