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新規開業医の悲しい物語

第5話何も決まってないんですね…、分りました。任せて下さい!

「先生、ご開業はいつ頃の予定ですか?」

早速、佐川氏の質問が始まった。

当然と言えば当然の質問。開業する時期が分らなければ、スケジュールの立てようがない。さらに質問は続く。

「場所はどのような場所をお考えですか?都心部ですか?郊外ですか?ビル診療ですか?自宅兼診療所ですか?」
「自己資金は幾らの予定ですか?」
「院内にされますか、院外にされますか?」
「HPは作りますか?」

何のことかよく分らないが、少なくとも、イザ開業するためには色々考えないといけないという事は分った。

しかし…、佐川氏からすると当然の事を聞いているのであろうが、「先生!先生!」と立て続けに言われると、半ば自分が責められているように思えて、とりあえず、その場から離れたくなった。

ここで、将来からの“ものぐさ性質”が頭をもたげた。

「すいません…。お恥ずかしい話ですが、何も決めてないんです。全てお任せしますので、お願いしていいですか?」

後から思えば、これが一番よくなかった。このいい加減さが後々の苦労を倍増させる事になる。

「何も決まってないんですね?そうですか…分りました。任せて下さい!ちなみに、お手伝いさせて頂く料金なのですが、吉田先生のご紹介なので、本来であれば300万円のところ200万円で結構です。」

正直、200万円という金額が高いか安いか分らない。自分では200万円もの大金を右から左に移す生活はしたことがなかったので、高いと思う。
しかし、全く何もしなくても良いという「煩わしさからの開放」と、あと、吉田先輩が言ってた「高くつく」という言葉を思い出し、

「と、言うことは、先輩は300万円支払っている訳か。自分の方が安くついた!これはありがたい。」

妙に自己弁護的な発想をしてしまった。何よりも、この佐川氏の言うことを聞かなければ、開業出来ないかも知れないという不安も大きかった。また、「200万でよい」という言葉の使い方も上手い。いかにも、ディスカウントを強調した言い回しだが、それにすっかりはまってしまった。

どんな、ディスカッションでもそうだが、準備不足のまま臨むと、精神的に相手有利になりがちだが、今日の場合は、「ノーガード」で打たれ放題といったところか。

精神的に不利な状況と、妙な自己納得で200万の出費が決まった瞬間だった。

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