
ホーム > クリニック経営情報 > 新規開業医の悲しい物語 > 第29話

後日、紹介されたのは、税理士を目指して勉強中の、入社2年目の吉村氏(仮名)という人物。
色白で、線が細く、昔よくいた「ガリ勉」タイプに見えるが…。
時々ズレ落ちそうになる大きなメガネを人差し指で上げながら、これまた小さな声で、
「はじめまして、吉村です…。」
なんだか心細くなってきた。この人に、何でも相談出来るのだろうか。頼りなさそうだ。
黒田氏は、紹介が終わると次のアポイント時間が迫っていると言って帰ってしまったので、工事中の部屋に吉村氏と2人きりになった。
「…。」
「…。」
お互い、何となく気まずい空気が流れる。何か話さないと…。
そう思って少し困っていたその時、
「あのう…、先生、今まで使われたお金の“領収証”を全部出してもらえますか?」
と吉村氏が言ってきた。しかし、いちいち声が小さい。
「開業費の計算と、資金繰りの計算をしたいので…。」
たまたま、お金の計算をするために領収証は全て保管しておいたから良かったものの、もし、何も知らずに捨ててしまっていたら…。最初に佐川氏からアナウンスがあるべきではないのか?それとも「一般常識」なので誰も教えてくれないのか?いずれにせよ、残していて良かった。
領収証を詰め込んだビニール袋を吉村氏に手渡す。文字通り、グチャッっとしたままだ。
吉村氏は、領収証を、1枚1枚見ながら、
「これは経費になりません、これもダメです、これも、これも…、」
と何かを唱えるように、かつ、屋台の“ひよこ売り”のごとく、手際良く、経費になるものとそうでないものを分けていった。
そして、一通り分け終えると、これも目にも止まらない速さで電卓を叩く。
電卓を叩く手をチラッとも見ず、ひたすら領収証をめくって叩いている。
「これが、専門部隊か…!」
思わず、感嘆の声を上げてしまった。
見たことがないなら、一度、自院が契約している税理士事務所や会計事務所の担当者にやってもらってみればいい。本当にスゴイ!!
但し、これが、仕事が出来るという証明ではなく、単に作業効率が良いだけと気付くのは、もっと先の話だ。